金与正が脱北者を「人間のクズ」「ばか者」呼ばわり……北朝鮮“ヘイト談話”の効果

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罵詈雑言の“洗礼”

 これが北朝鮮のナンバー2の談話とは、開いた口が塞がらない。

「金与正はまだ31歳、むろん自分で書いた談話ではありませんね。彼女にはあんなボキャブラリーはないでしょう」

 と語るのは、「コリア・レポート」編集長の辺真一氏だ。

「談話は、労働党の宣伝扇動部が作成しています。今回は、これ以上の表現はないというくらいの罵詈雑言にまで達していますよ。喜怒哀楽の表現が天才的だったシェイクスピアもたじたじでしょう。北朝鮮と口喧嘩をして、勝てる国はありません。彼らは敵愾心が強く、相手への憎悪、憎しみをそのまま文章にします。奥歯に物が挟まるような表現は一切しません」

 ご存じの方も多いと思うが、北朝鮮はこれまでもアメリカの歴代大統領や安倍晋三首相などにも罵詈雑言を浴びせている。

「2017年にトランプ大統領が金正恩を揶揄して『ロケットマン』と発言すると、金正恩はトランプを『おいぼれ狂人』と言い返しました。北からこういった“洗礼”を浴びた方はいくらでもいます」

 2019年11月に北朝鮮がミサイルを発射した際、日本が弾道ミサイルと見なしたことで北朝鮮が安倍首相を名指しで非難。「安倍は本当の弾道ミサイルが何かを遠からず、それも非常に近い所で見ることになるかもしれない」と警告し、「無知と愚昧を完全にさらけ出した」と低劣な表現を使った。

 逆に相手を褒める時は、極端な形容詞を使うという。

「金正恩を持ち上げる時は、こちらが聞いていて恥ずかしくなるような形容詞を使います。『天に二人といない、偉大なる将軍様』みたいな感じで、日本だったらほめ殺しと思われるかもしれません。北のメディアも、金正恩を表現する時は、『敬愛する』『偉大な』という枕詞を必ず使います。金正日時代からの金ファミリーお抱えアナウンサーの李春姫を見ればよくわかります。金正恩を宣伝するときは歌舞伎を演じているように、抑揚をつけて語ります。淡々と読み上げればいいのに、大げさに語るのです。とにかく大げさな形容詞が好きな国民なんですね」

 韓国だけは、北朝鮮の罵詈雑言には慣れているそうだが、

「2018年の平昌冬季五輪で、金与正は金正恩と一緒に五輪会場を訪れました。金与正は常に笑顔を絶やさず、礼儀正しく、物腰が柔らかく、おしとやかでいて凛としている。それで韓国では彼女の人気が一気に高まりました。ところが、今回の談話に韓国人はみなショックを受けていると思います」

 韓国統一省は10日、ビラを散布した脱北者団体など2団体を南北交流協力法違反容疑で刑事告発し、団体の法人認可を取り消す方針を明らかにした。金与正の怒りが伝わったようである。

週刊新潮WEB取材班

2020年6月15日掲載

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