玉川徹先輩のこと…「伝説の視聴率男」「愛される悪役」像を後輩が語る

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玉川先輩を撮影するためのもう1台のカメラ

 あと、玉川先輩に驚いたのは、通称「玉川カメラ」です。僕たちが誰かのインタビューに行く時には、普通カメラマンひとり、カメラ1台で行く場合が多いのですが、玉川チームは必ずカメラ2台でインタビューを撮りに行っていました。ああ、なるほど2方向からインタビュー対象者を撮影して、あとで編集しやすくするんだなと最初は思いましたが、どうやらそうではありません。2台のうち1台は、質問する玉川先輩を撮影するためのカメラなのです。

 これも、なかなか我々ディレクターの常識からすると驚きでした。例えば「番組MCが誰かをインタビューしにいく」とか、「有名人が有名人にインタビューする」とかなら、質問者側に1台カメラを向けることもあるのですが、通常だとあまりそういうカメラの使い方はしません。なので、スタッフの間では「玉川カメラ」とひそかに名付けられ、これまた伝説となっていたのです。しかし、編集のあがりを見てみると、たしかに「玉川カメラ」がうまく生かされていて、いい感じになっているから驚きです。さすがだな、と思いました。

 そんな感じで、玉川先輩はとにかく「特別」な人でしたし、なんとなくいつも怒っているか文句を言っているようなイメージがあったので(本当にスミマセン)、近寄り難い印象がありました。当時番組には「玉川番」といって、玉川先輩の指示に従って取材の準備やらロケ・編集・スタジオ周りなど全てを担当するディレクターがいて、比較的若いディレクターが半泣きになりながら頑張っていたりしましたので、そういった意味でも僕はビビっていました。あと、僕も含め普通のディレクターは裏方志向が強いので、「自分が作ったVTRで勝負したい」とか「誰か面白い出演者を見つけてきて評価されたい」と考えがちです。だから自分が出演してガッツリ視聴率を稼ぐ玉川先輩は、「出たがり」などと陰口を叩かれることもあったと思いますし、アンチもそれなりにいたと思います。

 でも、玉川先輩の取材がスゴイのは本当です。一度、玉川先輩が若手ディレクター向けの研修の講師をしたことがあって、それを僕も聴講したのですが、こんな言葉が強く印象に残っています。

「官公庁に取材を申し込む時には、『いついつまでにお願いします』と期限を区切ってはいけない。そうすると、『いま忙しいので対応できません』と断られてしまう。『いつまででも待ちますので、いつでも結構です』と言えば相手は断る口実がなくなってしまう。そうすると意外に早い時期に取材に応じてくれるものだ」

 この話を聞いた時には、僕は「なるほどなあ」と感動しました。一貫して官公庁相手に闘ってきた、経験豊富な玉川先輩だからこそたどり着けた真理なのだなあ、と思ったものです。

 モーニングの曜日班の有志で、職場旅行のようにソウルに行った時のことも印象に残っています。みんなでご飯を食べに街に繰り出して、結構お酒も入り、日頃笑わないと思っていた怖いイメージの玉川先輩が、おどけて大笑いしていたのを見て、なんかホッとしたのを覚えています。先輩はあまりプライベートを他人に見せない人でしたが、寂しがり屋な面もある優しい人なんだなあ、とその時ふと思いました。

 いまや、Yahoo!ニュースなんかを見ると、「玉川徹氏がこう発言」みたいな記事のタイトルが毎日のように並んでいます。いろいろなところで、「玉川さんはズバズバ言うから好き」とか、「あの人は大嫌い」とか、「親が『玉川さんが言ってたから間違いない』と玉川さんを信じきってる」とか、そんな声をちょいちょい聞くようになりました。賛否両論さまざまだとは思いますが、「視聴率男」である玉川先輩は、きっと今日も様々な作戦を練っているのでしょう。

 モーニングOBの人と、時々僕も出くわすことがありますが、そんな時にはいつも決まって玉川先輩との思い出話になります。笑いながら、悪口半分。とても盛り上がります。是非これからも先輩には、「愛される悪役」としてご活躍いただきたいと、僭越ながら願っております。

鎮目博道 しずめ・ひろみち
テレビ・プロデューサー・演出・ライター。92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、多メディアで活動。上智大学文学部新聞学科非常勤講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年6月14日掲載

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