「あいつはバカだ」は名誉毀損になるのか SNS時代の名誉毀損入門(3)

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 たとえ真実を書いても名誉毀損になることがある、というのは前回の記事でお伝えした。それでは、「あいつはバカだ」といった悪口はどうなのか。当然、名誉毀損でしょ、と思われるかもしれないが、法律的に見るとそう簡単ではないようだ。

 弁護士の鳥飼重和氏が監修した『その「つぶやき」は犯罪です―知らないとマズいネットの法律知識―』をもとに見てみよう(相談は架空のものです)。

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 【高校生Gさんの相談】
「同級生に、馬鹿田という者がいて、いつもからかっています。

 あるとき、馬鹿田がテストで0点をとったので、インターネット上の、私の高校について書かれている掲示板に『馬鹿田は本当にバカだよな』と書いてやりました。すると他の友人もこれに続けて『あいつは今回の国語のテストで0点をとったからな』と書き込みをしました。

 翌日、馬鹿田が学校で、私と友人に対し、掲示板で書き込みをしたことについて、『もう怒った。2人とも名誉毀損だ。警察に被害届を出してやる!』と言うのです。

 でも、名誉毀損は『事実』を書いたときのものであって、“バカだ”などの『評価』を書いても名誉毀損にならないと聞いたことがあります。国語の点数を書いた友人はともかく、バカだと言った私については、名誉毀損にならないと思うのですが、どうでしょうか」

【回答】
 名誉毀損罪が成立するには、「公然と事実を摘示」する必要があります(刑法230条1項)。そして、名誉毀損罪でいう「事実」とは、単純に「現象や事柄」を指す言葉であり、真実だという意味は含まれません(「虚偽の事実」という言い方もできるということです)。

 そのため、意外かもしれませんが、Gさんの書き込みは刑法上の名誉毀損罪にはなりません。馬鹿田さんについての「具体的事実」を示さずに、“馬鹿田は本当にバカだ”という「評価」を書いているに過ぎないからです。

 一方で、友人の書き込みは、馬鹿田さんが「国語のテストで0点をとった」という具体的事実を摘示したものです。また、高校の掲示板に対する書き込みであること、「馬鹿田は本当にバカだ」という書き込みが既にある上での書き込みであることを考えれば、本人のことを詳しく知らない一般の人でさえ、「馬鹿田の国語力が高校生として十分でない」という印象を受けます。これは相手の社会的評価を低下させる書き込みと判断できますので、名誉毀損罪が成立しうるものと考えられます。

「侮辱罪」が成立する可能性

 ただし、Gさんも安心してはいけません。インターネット上の掲示板において公然と馬鹿田さんを侮辱したものとして、今度は「侮辱罪」が成立する可能性があるからです。

 侮辱罪について、刑法231条は、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する」としています。「バカ」をはじめ、「キモい」「クソ野郎」など、相手を貶める発言は全てこの対象となります。

 ただ実際には、同級生同士の「本当にバカだ」という程度の書き込みで侮辱罪が成立し、逮捕されるなどということはあまりないでしょう。

 また、刑罰も名誉毀損罪と比べてだいぶ軽いものです。

 名誉毀損罪の場合、3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金です。侮辱罪の刑罰が拘留(1日以上30日未満、刑事施設に拘置する刑罰)、または科料(千円以上1万円未満のお金を取る刑罰)なのと比べると、だいぶ重いといえるでしょう。

「事実」を示すか、「評価」に過ぎないかで、ずいぶんと法律の扱いは変わってくるのです。

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 ここで述べているのはあくまでも現行の法律を前提にしたものである。「テラスハウス」の件などから、SNS上での誹謗中傷にはより厳しい目が向けられているので、いずれ法改正も行われるかもしれない。そして法律云々とは別に、無闇に他人の悪口を書き込んだりしないほうがいいのは言うまでもない。

デイリー新潮編集部

2020年6月13日掲載

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