コロナ禍で忘れられている「若年性脳梗塞」、36歳女性の叫び

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コロナ感染を恐れて病院行けず

 脳梗塞で倒れてから6年。SNSでの活動も始め、女性が心身共に前向きに生活できるようになった矢先、新型コロナウイルスが国内でも猛威を奮い出した。脳梗塞の患者は、新型コロナに感染すると重症化のリスクが高いという専門家の見解も出ている。女性は「薬をもらうために病院に行くだけでも戦々恐々とし、病院に行けない人もいるみたいだ」とこぼし、リハビリに通えなくなって困っている同世代の患者から相談を受けることもあるという。

「脳梗塞で突然、身体が不自由になった人間は、『身体的弱者』になり、身体の回復のための治療やリハビリで経済的負担が強まり、さらに仕事ができなくなる場合もあることから『経済的弱者』にもなり、本当に知りたい情報に巡り会えず『情報弱者』にもなってしまう。私自身、身体的な負担等からできることは圧倒的に減り、新型コロナの影響でさらに行動範囲も狭まり、現在はギリギリで生きている」――女性の思いは切実だ。

 脳梗塞で倒れ、30歳まで当たり前にできていたことが突然できなくなった。たくさんのことを諦めたし諦めるしかなかった。それでも、治療やリハビリを通して、女性は「今」「人」「自分」の3つを大切にするようになった。そして、SNSでの活動は、誰かの力になれればと思い始めたものの、「励まされた」「もっと生きようと思った」「あなたの経験や思いが誰かの頑張りになっている」「勇気をありがとう」といった反響があり、逆に力をもらった。

 新型コロナに負けじと、最近は手のリハビリのために「手話歌」の活動にも本格的に取り組み始めた。オンライン上で活動に賛同した人たちと手話サークルを作り、手話リハビリによる身体的な効果についても情報発信している。

 SNSから伝わる、前を向き、懸命に生きる女性の姿――。言葉では書き表せないような苦難に遭いながらも、「同じ境遇の人の不安を少しでも拭いたい」との思いで情報発信を始めた、その「誰か」を「人」を思いやる優しさは、きっと誰かに伝わっているはずだろう。

 我々は、新型コロナでちょっと生活が不便になったからと、弱音を吐いている場合ではない。重病の患者や障がいを持つ方々など、新型コロナに関係なく、常日頃から不自由を強いられている人はたくさんいる。「当たり前」に感謝し、もっと「今」を、「人」を、「自分」を大切に思いながら生活しなければならない。多くの人がそうした思いを心の片隅に抱き続け、思いやりの精神が社会にあふれていけば、新型コロナが終息する時もきっと訪れるのではないだろうか。

週刊新潮WEB取材班

2020年6月13日掲載

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