過大還付金1500万円 ギャンブルや遊興費に使った場合は「返還不要」の謎

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 払った税金が少しでも戻ってくれば嬉しいもの。それが1500万円も多く戻ってきたとしたら――。

 そんなありえないような事例が大阪府摂津市で起きた。市民税課の職員が言う。

「2018年4月、担当者がある市民の男性の住民税額を決めるため“株式等譲渡所得割額控除額”を端末に入力する際、1桁多く間違って打ち込んでしまったのです」

 正しい額は約166万円だったのに、約1668万円と入力。その結果、同年7月に男性の口座に本来の額より1502万円多く還付してしまったのだ。

 それが昨年10月に大阪府の指摘で発覚。男性は60代の年金生活者で「借金返済等に充てて使い切ってしまったので返還できない」と説明しているという。

 市は返還を求めるため交渉しているが、男性側が応じないため、民事訴訟も含めて検討しているようだ。

 果たして裁判になった場合、行方はどうなるのか。元判事で債権回収にも詳しい井口博弁護士によると、

「第一のポイントは、市が間違って還付してしまったことに、この男性が気づいていたかどうか。報道によると、男性は『市のやることだから間違いない』と思ったと語っているそうですが、その言い分が通るのか。もし市のミスを知りながら、そのお金を使ったのであれば、男性には“悪意”があったことになる。となれば、全額返還しなければなりません」

 では、男性が本当に市のミスに気がついていなかったとしたら? その場合、間違って手に入れた金銭、つまり不当利得の使い道によって変わってくるという。

「まず1500万円を生活費や借金返済に使ってしまった場合です。これは返還を求められます。こうしたケースでは、本来なら生活費や借金返済に支出されたであろう自己の財産の減少を免れているわけですから、受けた利益は形を変えて明らかに残っているといえますね。つまり法律上の用語で“現存利益”があるとされ、返還の義務が生じるのです」

 だが、驚いたことに、

「遊興費やギャンブルなどの無益な支出に充てた場合、返還しなくていいのです。たまたまお金が入ったせいで普段なら使わないことにお金を浪費して、なにも残っていないというケースでは“現存利益なし”とされ、消費した分の返還を求められることはありません」

 生活費や借金返済に使ったなら返還せねばならず、遊びやギャンブルでパーッと消えてしまった場合には“現存利益がない”として返還を求められない……。

 なんとも直感に反する話で、一般の感覚からすると理解しづらいが、法律的にはそうなるのだという。

「男性は『生活費や借金返済』に使ってしまったと報道されているので、この場合は返還しないといけない。しかし、裁判で摂津市が勝ったとしても問題はその後。強制執行しても男性は無一文で何もないでしょう。年金は差し押さえの対象にならないので、回収できないで終わってしまうのではないか。となると、市の側がミスした職員に損害賠償を求めることもありえます。行政側がそれをしなくても、市議会がこれを問題にした場合、ミスした職員が責任を取らされるケースも考えられなくはありません」(同)

 ことの成り行きを今一番心配しているのは、ミスした職員かもしれない。

週刊新潮 2020年6月11日号掲載

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