専門家会議もモヤモヤした「新しい生活様式」 委員メンバー「2メートル空ける必要なし」

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QOLが下がってしまえば

 ところで、「新しい生活様式」は、どこまで真剣に考案されたのか。専門家会議委員でもある、国際医療福祉大学大学院の和田耕治教授(公衆衛生学)に聞くと、

「5月4日に発表したもので、いまから見ると、地域によっては内容には厳しい例もあります」

 と言い、こう加えた。

「“マスク警察”のような、マスクをしていない人を批判することなど、まったく望んでいません。新しい生活様式の根幹には、自分を守り、相手を守るという思いやりの気持ちがあるべきで、できる人はより積極的に行い、できない人もできるだけすることが大事です。ただ、小さな子供にまでマスク着用を強いるようなことは、期待していません」

 やはり専門家会議委員で、川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦氏は、

「新しい生活様式は、厳密にその通りにしなければいけないものではなく、こういう点に注意してもらえればリスクは下がる、という内容。人との距離は2メートルから最低1メートルとなっていますが、90センチではダメかといえば、そんなことはない。あくまでも目安ですが、それが一人歩きしているのはよくないと思います」

 意外にも、国民をがんじがらめにする趣旨ではないというのだが、そう受けとっている国民が、どれだけいるだろうか。

 実は編集部は、「新しい生活様式」への見解を聞くべく、ほかの専門家会議委員に質問状を送ったが、尾身茂副座長と大曲貴夫氏、釜萢敏氏から多忙などを理由に断りの連絡があったのを除けば、東大医科学研究所公共政策研究分野の武藤香織教授から回答が得られただけだった。武藤教授は「新しい生活様式の実践例を起案した立場ではない」と断ったうえで、概ね、

「出すなら有効期限が明確なほうがよかったのではないか、定期的に更新することが必要だったのか、実践例を定期的に発信することこそ、国や専門家会議が人々の暮らしに立ち入っているのではないか、という点でモヤモヤしています。(中略)これらを全部実践し続けたら、新型コロナの感染リスクは下げられても、生活の質(QOL)が下がって、別のリスクが浮上してしまう。そのように普及しているなら本意ではない、と考えさせられました」

 と回答。ほかにも社会的距離については、

「マスクをすれば2メートル空ける必要はありません」

 と答え、「新しい生活様式」という名称も、

「個人的には賛同していませんでした。人々に訴求できるネーミングを思いつくプロでもなく、関係者の合意を得るのは難しかったのは事実でした」

 と誠実に回答してくれた。逆に言えば、脇田隆字座長や、8割おじさんこと北海道大の西浦博教授らほかの委員は、この生活様式を未来永劫押しつけ、人間にとって大事ななにかが失われても構わない――。そう考えているということか。

 折しも共同通信の世論調査では、緊急事態宣言の全面解除は早すぎたと思う人が47・2%、第2波が心配な人が96%、今後も外出を自粛する人が94・2%に上った。しかし、こんな「生活」を強いられれば不安を拭えないだろう。海外の感染症対策にも詳しい、京大大学院医学研究科非常勤講師の村中璃子医師が言う。

「日本は人口あたりの死者数が欧米よりはるかに少なく、医療キャパシティに余裕があったにもかかわらず、緊急事態宣言解除後も、欧米より厳しい条件の対策が要請されています。しかし、第1波の経験により、PCR検査キャパシティも院内感染対策も、飛躍的に向上しています。再流行に警戒することは必須ですが、ゼロリスクを目指せばなにもできなくなる。社会、経済活動を再開させるうえでのリスクテイクの議論を、もっとしていくべきです」

 強いられた「日常」を守り、守るように同調圧力をかけ、滅びゆく愚は、ゆめゆめ避けねばなるまい。

週刊新潮 2020年6月11日号掲載

特集「逆襲の『コロナ』」より

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