4kg痩せてみたけど世界は何も変わらない(古市憲寿)

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 この1カ月間で4kgほど痩せた。要はダイエットに成功したわけだが、あまり達成感がない。なぜなら「そりゃ痩せるだろうな」という行動をしていたから。

 まず、チョコレートなどの甘いものを、プロテインとフルーツに置き換えた。パナソニックのタンブラーミキサーを使っているのだが、ここにイチゴやバナナ、パイナップルなどフルーツを入れる。コンビニで売っている冷凍ブルーベリーでもいい。そこに粉末プロテイン、氷を二つか三つ、そして水を入れる。お好みでシナモンやココアをまぶしてもいい。

 ミキサーに10秒くらいかけると、信じられないくらい甘いスムージーができる。チョコレート(普通の人の主食に相当)の代わりに朝や昼に飲んでいるのだが、とても満足度が高い。

 プロテインのダイエット情報を教えてくれたのは、「とくダネ!」で共演している橋口いくよさん。プロテインはあまり味が好きではなくて敬遠していたのだが、橋口さんに聞いたレシピだとデザートのように飲むことができる。

 ついでに脂質も意識するようになった。糖質制限ダイエットでは脂質に目が行きにくいが、気にし始めると手に取る食品が大きく変わってくる。

 これだけで体重は減ってきたのだが、調子に乗って運動量も増やしてみた。元々ジムには行かないが、できるだけ歩くようにしている。活動量計のFitbitによると、先週は合計98928歩も歩いたらしい。

 結果、4kg痩せたわけだが、ちっとも嬉しくない。毎日のようにあった会食がなくなった上で、プロテインやフルーツを摂取しながら運動量を増やしたら痩せるに決まっている。

 しかも痩せたところで世界は何も変わらなかった。あまり他人からも気付かれないし、仕事も私生活もいつも通り。強いていえば、たくさん歩いた日は作業効率が落ちる。そういえば友人の映画プロデューサーもステイホーム期間中にファスティング(断食)をしていたが、全く頭が回っていなかった。

 ダイエットとは生き方を変えることである。減量に成功したとして、問題はその生き方を一生続けたいか。しかも仕事に差し障りまで出てくるのなら、ダイエットなんて止めてしまったほうがいいのではないか。

 この心境、まるで夢を叶えてしまったミュージシャンみたいだと思う。子どもの頃から憧れたステージに立ち、ヒット作品を連発する。いざ夢を叶えてみると、きらめく世界さえ退屈な日常になって、音楽の楽しさを忘れていく。それどころか一度は手にした栄光がいつ崩れるかに怯えている。

 痩せた後に訪れるのは、ただの日常。そして恐怖するのはリバウンド。なりたかったのはこんな状態ではない。好きなものを好きなだけ食べて、運動もしないで、それなのになぜか太らない。そんな魔法のようなダイエット法を探していたのだ。増量は一瞬だ。目下、この生活をいつまで続けるか迷い中である。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。

週刊新潮 2020年6月11日号掲載

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