ついに国債「1000兆円突破」で迫る「大増税」

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 政府は新型コロナウイルス対策で、2020年度予算において2度目の補正予算案を組み、6月8日、国会に提出した。

 成立すれば、2020年度の新規国債発行額は過去最高となり、財政赤字は対GDP(国内総生産)比で250%を超える“未曽有”の借金財政に突入する。

 目下、6月17日に会期末が迫る終盤国会で、野党はこの補正予算案の内容に厳しく噛みついている。10日午後に衆議院予算委員会では可決された。

 まず、2020年度の財政状況は以下の通りになっている。

 2020年度の新規国債発行額90.2兆円は、リーマンショック後の2009年度の経済対策による国債発行額52兆円を大きく上回り、公債依存度(一般会計歳出額のうち、国債発行が財源となっている割合)は、当初予算時には31.7%(うち赤字国債の割合は24.7%)だったが、第2次補正予算まで含めると56.3%(同44.5%)に跳ね上がる。

 つまり、国の歳出額の半分以上が国債という借金によって賄われるわけだ。

 公債依存度はリーマンショック後の2009年度で51.5%、東日本大震災復興の2012年は48.9%だった点を考慮すれば、いかに異様なほどの“借金漬け”になっているのかは明らかだろう。

 これは、補正予算(第1号)と第2次補正予算(第2号)の一般会計歳出分(いわゆる真水部分)の財源をすべて国債の発行に頼った結果だ。これにより、2020年度の国債発行残高は、ついに1000兆円を突破することになった。

 2020年度当初予算102.7兆円のうち、国債費(国債の償還と利払いを行うための経費)は予算の22.8%を占める23.4兆円にも上り、政府が政策などに使える経費である基礎的財政収支対象経費は79.3兆円と、80兆円に満たない。23.4兆円に上る巨額の予算が借金返済(国債費)に充てられており、その分、国民生活のために充てられるべき基礎的財政収支が減っているのだ。

先進国で日本だけ

 予算に占める国債費の割合は、1960年度には僅か0.03%に過ぎなかった。

 それが、1970年度に0.3%、1980年度に5.5%、1990年度に14.3%、2000年度に21.4%と一貫して上昇しており、基礎的財政収支を圧迫している。

 政府の公的債務(大半が国債で、ほかに借入金、政府短期証券など)の国際比較を行う場合に、公的債務の対GDP比が使われる。

 IMF(国際通貨基金)の推計によると、2019年のG7(先進7カ国)の公的債務の対GDP比は、日本が飛びぬけて237.7%である。100%を上回っているのは米国(106.2%)とイタリア(133.2%)だけで、それ以外は100%未満なのである。

 さらに問題なのは、比率が継続して上昇しているのが唯一、日本だけだという現実だ。日本以外のG7各国は、財政規律に目を配り、財政健全化を進めているわけだ。

 しかも今回、2020年の日本の公的債務の対GDP比は、2回の補正予算によって250%を超える水準まで上昇する。

 こうした財源を新規国債発行に頼る財政出動が罷り通っている背景には、もちろん新型コロナによる危機がある。日本のみならず、世界の多くの国々が新型コロナの感染拡大による国民の健康被害と経済的なダメージを天秤にかけた上で、外出自粛や休業要請を行い、経済を犠牲にした。

 その結果として、国が企業や個人に対する支援を行うのは当然であり、ある程度新型コロナの感染拡大が収束した後も、引き続き、感染拡大防止と経済活動を両立させるために、適切な財政出動を行う必要がある。

 需要を支えていくためには、財政政策の役割は重要だ。

 こうした“有事対策”としての財政拡大による財政の出動については、国民感情的に非常に許容しやすい。

 その上、5月8日の拙稿『禁じ手「財政ファイナンス」踏み込んだ日銀「黒田総裁」に財政規律は効くか』で述べたように、日本銀行が金融政策の一環として「国債買い入れ枠を無制限に拡大」し、“事実上の財政ファイナンス”に踏み出したことも大きい。

 政府にとってみれば、日銀が無制限に国債の買い入れを実施することで、どれだけ国債を発行しても、その消化に困ることはないし、日銀によって長期国債の金利が超低金利に抑え込まれているため、新規国債発行による金利負担は軽微で済む。

 こうした状況が財政赤字の拡大に容易に踏み出しやすい環境を作っている。

 加えて、通常はこれだけ巨額の財政出動を行えば物価が上昇し、インフレが発生する懸念があるが、現在は新型コロナ対策による経済活動の停滞が招いた需給ギャップが発生しているため、インフレ懸念がないことも背景事情として大きいだろう。

 たとえば、内閣府の2020年1-3月期GDP速報によると、GDP需給ギャップは-2.7%だ。

 さらに、公益社団法人「日本経済研究センター」(JCER)調査によるエコノミストの4-6月期GDP見通しは、前期比年率-21.33%、2020年度の消費者物価(生鮮食料品を除く)の前年比は-0.45%と予測されている。

“厳しい目”が必要

 しかし、ではだからと言って、無秩序に野放図に財政出動を行い、財政赤字を拡大させてよいものであろうか。

 国債はあくまでも借金であることに変わりはない。財政赤字は将来世代に“ツケを回す”ことに他ならない。

 日本のように、公的債務の対GDP比が上昇を続け、財政赤字が拡大し続けると、何が起こるだろうか。

 消費者や企業は、ほぼ間違いなくやがて行われるであろう大型増税などを予想し、内部留保や貯蓄に走り、投資や消費を減速させる要因にもなる。つまり、公的債務の拡大は、将来的な経済成長の阻害要因になるのだ。

 加えて、公的債務の拡大は国債費の増大につながり、それが経済規模を超えて拡大すれば、公的債務をコントロールできなくなり、財政破綻を招くという潜在的なリスクを抱えている。

 だが、財政再建は容易なことではない。

 たとえば、財政規律を強めるとしよう。そのためには歳出の削減と増税を実施しなければならず、当然ながら経済にとって悪影響を与え、その結果、税収は落ち込む。すなわち、財政状況は改善しない。

 一方で、高い経済成長の実現を目指し、税収増による財政の改善を目指しても、景気動向は常に変化し、期待した税収が得られるとは限らない。

 ましてや、現状は新型コロナ感染拡大の第2波、第3波が襲来する可能性もあり、更なる財政出動が必要になるかもしれない。予想以上に経済へのダメージが大きければ、財政は一段と悪化する可能性を秘めている。

 だからこそ、政府の新型コロナ対策には“厳しい目”が必要になる。

 たとえば、最近話題となっている、持続化給付金をめぐる「サービスデザイン推進協議会」なる団体への不透明な業務委託問題。あるいは、安倍晋三首相が「強盗」と言い間違えたことで脚光を浴びる形となった総事業費約1兆7000億円規模の支援事業「Go Toキャンペーン」の事務経費が2割近い約3000億円にものぼる問題。

 これらのような、国民の税金を不透明な形で、効果の少ない事業に使わせてはいけないのだ。

やがては国民に跳ね返る

 筆者は、補正予算(第1号)が発表(4月27日)された時点で、「V字回復フェーズ」として、

(1)生徒やアマチュアを含む地域の文化芸術関係団体・芸術家によるアートキャラバン(文部科学省)

(2)子供たちの自然体験・文化芸術体験・運動機会の創出(文部科学省)

 等々、明らかに新型コロナとは関係ないものまで含まれている点をいくつかのメディアで指摘したが、この時、政治家も大手メディアも、この問題についてまったく関心を示さなかった。

 政治家も大手メディアもすでに忘れているかのようだが、2011年3月11日に発生した東日本大震災では、復興財源が所得税、住民税、法人税への上乗せで徴収された。具体的には、法人税の場合、2012年4月1日以降の事業年度から2年間の減税を実施した後、2年間、税額の10%が上乗せされた。

 法人税の増税はすでに終了しているが、住民税は、2014年度から10年間、1人あたり年1000円、所得税は2013年1月1日から25年間、税額に2.1%が増税されており、現在も増税が続いている。

 新型コロナ対策に使われた財政出動も、「新型コロナ対策税」などのような形か消費税増税などで、やがては国民に跳ね返ってくるだろう。

 今、求められているのは、効果があり必要な対策には十分な財政出動を行う一方で、不必要、不透明な財政出動をなくし、財政出動額を抑制することで、新型コロナ禍後の財政再建の国民負担を少なくしながら、いかに財政再建・財政改善を進めていくかの明確なビジョンではないだろうか。

鷲尾香一
金融ジャーナリスト。本名は鈴木透。元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。

Foresight 2020年6月10日掲載

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