小池都知事の「新しい生活様式」が壊す文化、芸術 経済回復も困難に

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売り上げが90%減少

 実際、「暫定的な非日常」にすぎないものを、「日常」や恒常的な「生活」と認めれば、その瞬間、冷たい社会にまっしぐらだろう。同業のAMATIの入山功一社長も言う。

「弊社の売り上げは前年比90%ダウン。私は日本クラシック音楽事業協会会長で、上演のガイドラインを作って文化庁の承認を待っていますが、客席は前後左右空け、市松模様のように斜めに入るようにします。これだとコンサートを開催しても収入は半減ですが、だからといってチケット代を上げるのも難しい。奏者間の距離も困難な問題で、マーラーなど大きい編成の曲は、しばらく演奏できないのではないかと。7月ごろから少しずつコンサートが始まっても採算は合わず、息切れする会社も増えるでしょうね。しかし業界全体として、なんとか工夫して頑張ろうとしています」

 映画も芝居も同じ状況なのは言うまでもない。それに人の顔を見て話すのが罪で、食事中は会話できないなど、人と人とのコミュニケーションを破壊し、人間社会を衰微させるものにほかならない。京都大学ウイルス・再生医科学研究所の宮沢孝幸准教授が言う。

「マスクをする習慣のない欧米では、全員の着用は無理だろうという前提で、WHOも、ソーシャルディスタンスを保つべきだとしました。しかし花粉症対策などでマスクをする日本では、社会的距離をとる必要はありません。新型コロナの感染経路はかなりわかってきて、接触感染と飛沫感染が大半で、呼気による感染はほとんどない。ところが新しい生活様式では、2メートルの社会的距離とマスク着用が両方必要だと捉えられ、しかも社会的距離が、新型コロナ対策の1丁目1番地に位置づけられた。それが罪深いのは、映画、演劇、コンサートといった、人格形成に重要で生きる希望にもつながる文化が、犠牲になってしまうからです」

 だが、残念ながら、新しい生活様式を守るように喧伝するテレビは、そう認識していないようで、

「テレビ朝日の取材を受けた際、“WHOはマスクをしていてもソーシャルディスタンスを2メートルとるべきだと言っている”と言われたので、“そんな論文があるなら見せてほしい”と求めました。示されたのは私がすでに読んでいた論文で、“2メートル離れていてもマスク着用が必要だ”と書かれてはいますが、マスクさえしていれば問題ないと強調しているだけなのです」

 誤解釈によって不安が煽られ、人間らしい営みが阻害されているとしたら、悲しすぎる喜劇である。

週刊新潮 2020年6月11日号掲載

特集「逆襲の『コロナ』」より

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