コロナ第2波から命を守る「抗体」事情 未感染者も持つ“交差免疫”とは
“交差免疫”の効力
都内で抗体検査を手掛けてきた、ナビタスクリニック理事長で内科医の久住英二氏はこう指摘する。
「4月に医療従事者と一般市民の計202人を対象に抗体検査を行ったところ、一般市民の約4%が抗体を保有していたことが分かりました。この陽性率を東京都の人口1400万人にあてはめると、すでに56万人が感染している計算です。となれば、PCR検査の遅れを考慮して、東京都のコロナによる死亡者数を2倍の500人と見積もっても致死率は0・089%。つまり、0・1%とされるインフルエンザの致死率より低くなるのです」
この数字を聞けば“敵”の見え方はかなり変わってくるはずだ。政府も重要性を理解したのか、6月以降、新たに東京・大阪・宮城の3都府県合計で1万人規模の抗体検査を実施することを発表している。だが、
「これまでの検査で、都内でも地域によって感染状況に開きがあることが分かってきました。そこで重要なのは“東京都”や“大阪府”といった行政区分で対策をひと括りにしないこと。流行している地域と、そうでない地域の双方から無作為にサンプル集団を抽出すべきだと思います。抗体検査の結果を受けて制限を段階的に解除する場合も、一律ではなく地域ごとに判断していくのが望ましい。東京都全体で一律に規制をかけると、抗体があり、それを必要としない人々の経済活動や社会活動まで制限されてしまうからです。とはいえ、東京の陽性率はまだまだ低いと感じます」(同)
コロナの場合、人口の60~70%が感染すると、“集団免疫”を獲得して流行が終息すると考えられているが、日本の現状はそれに遠く及ばない。しかし、先の矢野氏はこう続けるのだ。
「日本の感染者数がこれほど少なく、また、致死率が低いのは、かつて新型コロナウイルスに似たウイルスに感染して獲得した免疫が効力を発揮しているのかもしれません。これを“交差免疫”と呼びます」
つまり、新型コロナに未感染でも抗体を持っている人がいるというわけである。
実際、米・ラホヤ免疫研究所の研究チームは、コロナに感染していない20人分の血液サンプルの約半数が、一定程度の免疫を持っている可能性を指摘している。この点について、順天堂大学特任教授(免疫学)の奥村康氏は、
「交差免疫は決して珍しい現象ではありません。過去に罹った風邪に対する抗体が、新型コロナウイルスに効力を持つことも十分に考えられます。とりわけ子どもは従来型のコロナウイルスに感染することが多く、幼稚園や公園で様々なウイルスに触れている。子どもが新型コロナウイルスに感染しても圧倒的に重症化しづらい理由も、交差免疫で説明できるかもしれません」
第2波が襲来する前に、より多くの情報を“知る”こと。それこそが個々人、ならびに政府の対コロナ戦略の要となろう。
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