新型コロナウイルスで高まった結婚願望――50代後半で始めた婚活
「咳をしても一人」……。孤独を詠んだ、尾崎放哉の有名な句だ。それが昨今、別の響きを持つようになった。一人で暮らすことに不安や寂しさを感じている人は少なくない。フリーランスの雑誌記者、石神賢介氏もその一人。2011年、自身の婚活生活をつづった著書『婚活したら、すごかった』は話題になったが、残念ながら努力は実らず、いまだ結婚にいたってはいない。著書刊行後しばらくは婚活を休止していたものの、寂しさは変わらず、結婚願望は強くなるばかりだった。そして57歳を迎え、還暦を意識し始め、婚活を再開。しかし、40代のころとは日本の婚活環境は変わっていた。さらに、婚活中に新型コロナウイルスが蔓延。自宅にこもる生活になり、寂しさは増すばかりだ。「57歳からの婚活」の現実とは……。“アラシックス”にも希望はあるのか……。石神氏の実体験を通して、現代の中高年の婚活事情を見ていきたい。
(文中の紹介文、登場人物はプライバシー保護の観点から一部を変更してあります)
57歳からのリアル婚活レポート
57歳になった。50代を目の前に結婚願望を覚えジタバタした顛末をつづった『婚活したら、すごかった』(新潮新書)から8年が経った。還暦は近い。
32歳で結婚。33歳で離婚。それからはずっとシングルだ。プライベートにも仕事にも大きな変化はない。40代と同じように東京の武蔵野エリアで一人暮らし。40代と同じようにフリーランスの雑誌記者として働いている。
忙しい日々は続いた。でも、いつも心のどこかに寂しさを抱えていた。
そんな状況が続き、2020年に入り新型コロナウイルスが流行し始めた。最初はそれほど気にしていなかった。しかし、3月に入り仕事が減少。イベントの中止や延期が次々と決まり、エンタテインメントに関係する取材が激減したのだ。
4月、より深刻な状況になった。7日に首相が東京をはじめ7都府県に緊急事態宣言を発令。16日には全国に緊急事態宣言を発令。不要不急ではない用事をのぞき、自宅から出られなくなった。打ち合わせもインタビューも対面ではなく電話になった。
一人暮らしだと、人に会わない。3日、4日は平気だった。この機会に長い原稿でも書こうと思っていた。ところが、1週間を過ぎたくらいから、心に異変を覚えた。
誰かと一緒にいたい……。
切実に感じたのだ。
一人で起きて、一人で食べて、わずかな仕事をして、それまではほとんど見ていなかったテレビをつける。コロナの報道を一人で見入る。
結婚している友人たちは突然与えられた時間を家族とともに上手に使っている。学生時代の仲間の一人は在宅になり、妻と若いころに二人で観た映画を1日1本ずつ観ているらしい。毎日夫婦の共同作業で手の込んだ料理を作るようになった友人もいる。
僕はというと、カップラーメンやスーパーで買ったおにぎりで腹を満たす日々。自炊は、せいぜいパスタを茹でるくらいだ。ビタミンは市販の青汁ドリンクで補給している。ちょっとしたシェルターにいる感覚だ。
そんなとき、朝日新聞の朝刊でいやな記事を読んだ。一人暮らしの自宅で倒れ搬送先の病院で死亡が確認されるケースが相次いでいるという。そのいずれも中高年の男だと記されていた。
翌日の朝刊にはこんな見出しが目に入った。
「自宅待機の50代死亡」
コロナで軽症と診断され自宅療養していた埼玉県在住の男性が亡くなった。その人は50代で一人暮らしだった。どんな思いで、息を引き取ったのだろう。他人事とは思えなかった。
「結婚したい」という願望は「結婚しなくてはならない」になった。パートナーがいれば助け合える。誰かと手を携えて生きていきたい。
打ち明けると、コロナ禍以前、57歳を迎えた2019年から自分のなかに結婚願望が強まるのを感じていた。かつて婚活に勤しんだのは、50代を目の前にしたころ。今回は60代を強く意識したのだ。そして、婚活を始めた。
年寄りがよくもまたこりずに……と周囲に言われるのは承知だ。熟年婚活とは、寂しさが恥ずかしさに勝ったときに始めるものなのかもしれない。
そんな恥ずかしい部分もかくさずに、ここではつづっていきたい。そして、恥ずかしさから婚活に対して腰が引けている誰かに、ささやかな勇気をもたらすことになったらうれしい。
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