コロナ禍に田中角栄が首相だったら――元側近ら語る「マスク2枚は配らない」

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庶民視点で対応

 安倍総理は紆余曲折の挙句、国民1人当たり一律10万円の給付を決めたが、

「田中先生なら一律の給付ではなく、明日食べられない人にお金を渡すような政策にしたでしょう。雪国に育った田中先生、オヤジさんは、冬になると収入がなくなったり、家族を置いて出稼ぎに行く人を間近で見てきた。だから新型コロナで職を失い、命を絶つ人がいるということもすぐに想像できるのです」

 そう語るのは、角栄の元秘書の朝賀昭氏である。

「オヤジさんは『政治家というのは、人の痛みが分からないといけない』と常々言っていました。若い政治家を前にすると、『困っている人が目の前にいる時に助けようと思えない人間は選挙に出たらダメだ』と。当選1、2回の頃の小沢一郎にもそう話していました。そして、ただ言うだけではなく、オヤジさんは常に人のためになることを第一に政策を実行していました」

 角栄なら庶民視点で対応に当たったに違いない。角栄を知る人たちはそう口を揃えるのだ。

 角栄がロッキード事件で逮捕された後、初めてのインタビューに成功したモンゴル日刊紙東京特派員の佐藤修氏はこう話す。

「角栄さんが政治家としての最初の演説で、『国民に住宅を与えられないで何が政治だ!』と言ったのは有名な話です。庶民が何に困っているかいち早く気づき、その解決に向けて全力で動く方でした」

 自民党の石破茂元防衛大臣も、

「角栄先生の真骨頂というのは、困っている人を見捨てないところでしょう。何に困っているのか、誰が一番困っているのかを見抜く目をお持ちでした」

 として、こう語る。

「何が国民の心に響くのかということを角栄先生が分かっておられたのは、新潟の貧しい家庭に生まれて苦労されたことも関係していたのでしょう。弱い立場の人の気持ちが角栄先生には自分のこととして感じられる。今回のコロナ関連で言えば、テナントが家賃の支払いに困っている、といったことにもすぐに対応されたでしょう」

 また、角栄には金の配り方にも哲学があり、常々、

「金は受け取る側が実は一番つらい。だから、くれてやるという姿勢は間違っても見せるな」

 と、話していた。それ故、

「今回のような支援策でも、角栄先生なら、『政府がみなさんにお金をあげますよ』という姿勢ではなく、苦しい思いをさせてすまない、どうぞ受け取って下さい、という姿勢を徹底されたと思います」(同)

 次々に出てくる「角栄なら」の声。元側近や元番記者、そして現職の国会議員の談話から見えてきた角栄の決断力や実行力、人を思いやる庶民感覚はコロナ禍の今こそ必要とされるに違いない。

週刊新潮 2020年6月4日号掲載

特集「コロナ禍に『田中角栄』だったらば」より

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