コロナ禍で「日本はニューヨーク化する」とは何だったのか

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 東京都内のコロナウイルス新規感染者数が14人に増えた5月24日、小池都知事は100年前のスペイン風邪を例に挙げ、「特に第2波はウイルスの変異が疑われまして、致死率も第1波にくらべて大幅に上昇したと言われています」と、恐怖を煽った。都民を信頼し、節度ある行動を期待するのでなく、恐怖を煽り、自らが負うリスクを抑えるのが小池知事流である。

 だが、日本の心臓たる首都の、経済という血流を止めてまで、感染対策は徹底すべきものだったのか。京大大学院医学研究科非常勤講師の村中璃子医師は、

「感染者数も死者数もまだ増えている欧米では、国境封鎖の解除も決まっています。流行が収束に向かっている、というのが表向きの理由で、貿易や国交がこれ以上とまると経済的に厳しいからです。夏のバカンスを楽しみたいという、日本人には考えられないような理由もある。一方、被害がずっと少なかった日本では、感染者がまだ少しでも増えることを恐れ、生活を元に戻す議論が進みません」

 と指摘し、こう話す。

「基本再生産数を2・5として3月初めに提示された当初の流行予測モデルでは、接触8割減を達成できなければ、日本もあと3日でニューヨークのように流行爆発すると言われていました。しかし、4月22日の発表では、平日の都市部では6割台の減少しか達成できていなかったのに、そうはなりませんでした。3月14日時点で2・6だった東京の実効再生産数は、4月10日時点ですでに0・5。最初の流行予測モデルが間違っていたことになります」

 京大ウイルス・再生医科学研究所の宮沢孝幸准教授も、こう説く。

「専門家会議の資料を見ると、緊急事態宣言が出される前の3月27日に、流行がピークアウトしていたことがわかる。すると緊急事態宣言は過度な対策で、それ以前の自粛で事足りていたことになります。また広がるのは接触感染か飛沫感染で、人が吐いた息や飛沫からの感染は、一定以上の量を浴びたり、相当長時間密閉された換気の悪い室内にいたりしないかぎり、起こらないと考えられます。経路不明の感染者が大勢いる、という反論が出るかもしれませんが、本人に心当たりがあっても、たとえばそれが風俗などなら正直に調査に協力するでしょうか。エイズもドラッグユーザーの静脈注射で広がりましたが、感染者が違法ドラッグを使ったと正直に話さず、実態がわからないことが多かった。確率でいえば、コンドームなしでも性行為でエイズに感染するのは、100回に1回くらいです」

 新型コロナも同じ状況ではないか、というのだ。そして、口うるさく問われるソーシャルディスタンスも俎上に載せる。

「マスク着用の習慣がなかった欧米で重視されているもので、マスクをしていればソーシャルディスタンスを保つ必要はない。満員電車でクラスターが起きていないのはそのためです。東京都のロードマップではイベントが人数制限され、ライブハウスはステップ3でも営業できませんが、合理性がありません。ライブハウスも換気に気をつけ、お客さんはマスクをしてステージから距離を置き、飛沫を浴びないようにすればいいのです。過剰な自粛が強いられているのは、感染者が出たときに政治家や役人が責任をとりたくないからで、みな欧米のソーシャルディスタンスの考え方に引きずられ、新型コロナがとてつもなく怖いと洗脳されているかのようです」

 だが、たとえばインフルエンザは怖くないのか。国立感染症研究所の推計では、今季のインフルエンザの推計患者数は、過去10年で最少だったが、それでも728万人になる。ちなみに昨シーズンは1200万人超。5月26日にもワイドショーで、前日の13人というコロナによる死者数を取り上げ、MCが「そんなに亡くなるインフルエンザはない」と述べたが、東京歯科大学市川総合病院呼吸器内科の寺嶋毅教授によれば、

「インフルエンザが流行した年の(インフルエンザが流行しなかったと想定した場合の死亡者数と範囲を統計学的に推定し、計算した)超過死亡者数は、推定1万5千人から3万人」

 という。致死率約0・2%とすれば、今年は新型コロナ対策が奏功し、1万人以上の命が救われたことになる。裏返せば、昨年は対策不足ゆえ1万人以上の命が失われたとはいえないか。そうであるなら、新型コロナだけに目を向け恐れるのが、いかに愚かであるか気づかされるだろう。

週刊新潮 2020年6月4日号掲載

特集「民衆を導くのは『女神』か『死神』か」より

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