「反安倍」「反反安倍」の不毛(KAZUYA)

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『影響力の武器』(ロバート・B・チャルディーニ著)という有名な本があります。

 人間の心理について解説した名著ですが、この中に「コミットメントと一貫性」という項目が出てきます。

 人間には一貫していたいとの心理があり、一度決定を下したり、何らかの立場を取ると、それと矛盾しないように心理的圧力がかかり、その圧力によって以前の決定を正当化するような行動をし続けるという話です。

 これは政治の世界で考えると顕著なのではないかと思います。何しろ情勢は刻一刻と変わりますし、情報は日々更新され洪水のように押し寄せてきます。そんな中で大量の情報を元に一々考えるのは面倒なことです。

 ですから一貫性の法則に従って、自分が最初に決めた方針を堅持し続けることは、思考するという面倒な過程をすっ飛ばすことができて楽ですし、一貫性があるということで気持ちが良いのです。

 一貫性があるというのは、本来は悪いことではありません。しかし一貫性を維持することが常に正しいとも言えません。状況は常に変化するのですから、最初に決めた方針ではおかしな方向に行ってしまうことも考えられます。

 前回でも少し触れましたが、今ネットの一部では反安倍・反反安倍という一貫性で発言する人が見受けられます。反安倍は名前の通りで、安倍政権に常に批判的な立場を取るもので、どんな事象でもまず「安倍が悪いことをやろうとしている」という前提で考えてしまいます。そのため何でも「安倍が悪い」になりますし、全然問題ないようなことまで全てに批判を加え、空回りすることもしばしば。

 一方で反反安倍とは、反安倍を常に批判し続けるというもので、どんな事象でもまず「反安倍が悪いことをやろうとしている」という前提で考え、結果的に安倍政権擁護になります。これはいわゆる「検察庁法改正案」を巡るゴタゴタで顕著でした。反安倍を批判することで、本来問題になっていた事象から目を逸らすのです。しかし根本問題は何も解決していない点を忘れてはいけません。

 立場を一度決めてしまうとその呪縛からはなかなか逃れられないものです。左派にありがちなのは「原発→反対」「憲法9条→世界の宝」「安倍→やめろ」などです。一方で右派にありがちなのは「民主党政権→悪夢」「韓国→とんでもない」「マスコミ→カス」などです。これらは情報や考えが更新されることなく、一貫性の法則に従って一方的な見方を続けるのです。

 今はネットの時代なので、Twitterなどを開くと同じ方向への一貫性を持った人がたくさん居ることに気付かされます。そういう人たちがつるむと、「自分は一人じゃない」と後ろ盾ができてより過激化していく感があります。

 方針ありきなわけですから、反安倍と反反安倍で実りある議論はできません。不毛な罵り合いを永遠に続けるのみで、交わり合うことはないでしょう。

 自分自身気をつけたいと思います。常に違う意見を見て是々非々で考えていこうと思います。

KAZUYA
1988年生まれ、北海道出身。2012年、YouTubeで「KAZUYA Channel」を開設し、政治や安全保障に関する話題をほぼ毎日投稿。チャンネル登録者71万人、総視聴数は1億4千万回を超える。近著に『日本人が知っておくべき「日本国憲法」の話』(KKベストセラーズ)

週刊新潮 2020年6月4日号掲載

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