“国会より麻雀”だった「黒川弘務」前検事長 雀卓での素顔

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“勝負”の場

 もっとも、朝日の場合は、現役記者たちが麻雀の心得がなかったのか、参加していたのは50代の元記者であったし、そもそも、雀卓が「ネタ」に結びついていたのかは微妙なところで、

「黒川さんは、口が堅いことで有名ですから」

 と述べるのは、さる全国紙の司法担当デスクである。

「人付き合いがよく、法改正の論点や、他省庁の人事、同僚の批判となると饒舌ですが、肝心の捜査の話となると話題を巧みに逸らすんです。実際、現役の記者ではなかった朝日はともかく、産経だって、検察ネタがばりばり抜けていたワケではない。そもそも、麻雀の場で、事件のネタなんて漏らすワケもありませんから……」

 今回の件では、黒川氏の帰宅時、産経の記者がハイヤーを用意したことも「便宜供与」と問題になった。

「だから、車の中を“勝負”の場にしていたんでしょう。そこしか取材の場はありませんから、掴んだ情報をぶつけて感触を探る」(同)

 そんな“努力”をスパッと切り捨てることもできなかったか、産経は、事の発覚翌々日の紙面で〈賭けマージャンは決して許されるものではな〉く、〈深くおわび申し上げます〉とする一方で、同日の一面コラムで、〈現場の記者は、取材源の人物から情報を取るために、あらゆる手立てを講ずる〉〈担当する検事の趣味の登山に、早朝から付き合う。囲碁が好きな捜査官に合わせて猛勉強して、有段者になった記者を知っている〉と、「わかってくれよ」といった表現。

 朝日は元記者の“関与”について、社説で〈こうべを垂れ、戒めとしたい〉ともってまわった言い方の「謝罪」をする一方で、調査結果の中で「朝日の『記者』が参加した」と発表した法務省に対し、“誤り”と伝えるなど、火消しに躍起なのだ。

「私も、どれだけ警察官と麻雀やったかわかりません」

 と振り返るのは、彼らの大先輩に当たる、元読売新聞社会部記者の大谷昭宏氏。

「テンピンなら僕らの時とレートはあんまり変わっていないな、と思ったくらい。先輩記者からはよく“一杯のコーヒーより一杯のお酒”“一緒に悪さをすると一番のネタ元になる”と言われたものです。飛び込んでいかないとなかなか本当のことは漏れてこない。その上で、麻雀に誘ったら“ごめん、明日朝早いんだ”と言われる。で、明日“ガサ”があるんだ、とわかるレベルですが、決して建前だけの世界ではない」

 加えて、厳しく言う。

「ただ、今回の件は、それとは異質なものを感じます。本当にお互いの仕事をリスペクトしていたら、あの最中に麻雀はやらないはず。誘われても“今はやめておきましょう”と言うはずです。より良い報道というより、自分たちの関係を優先させたという気がしてならない。逆に、これを機にコンプライアンス至上主義者が叫んで、記者がますます萎縮していく。そうなれば、新聞の役割はどんどん薄れていくでしょうね」

 わけても、この時期の麻雀という、危機回避能力のなさ。この人が「検事総長」になっていたら、それこそ「緊急事態宣言」が必要だったかもしれない……。

週刊新潮 2020年6月4日号掲載

特集「国会より麻雀!『黒川弘務前検事長』の雀卓実況中継」より

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