「とくダネ!」勇退か1年延期か… コロナ禍の影響で「小倉智昭」の悩ましい立場

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 フジテレビのワイドショー「とくダネ!」(月~金曜午前8・00)のメーンキャスター・小倉智昭氏(73)の進退問題が、水面下で揺れ動いている。9月いっぱいで勇退か、それとも10月以降も続投か。今年の早い時期には東京五輪を花道に9月末をもって勇退することが内定していたが、新型コロナウイルス禍による五輪延期で進退も白紙になった。

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 新型コロナ禍問題は大物キャスターの進退にまで影響をおよぼしている。

「小倉さんには今年の夏、東京五輪の放送で中心を担っていただき、それを花道に勇退していただくはずでした」(フジテレビ情報制作局スタッフ)

 それは小倉氏からの申し出だったという。そもそも、小倉氏クラスになると、進退を番組側が一方的に決めることはできない。「とくダネ!」の大黒柱を1999年から21年以上も務めている上、フジ主催のイベントのサポーターも託されたことのある大功労者なのだから。

 では、どうして花道が東京五輪になるはずだったかというと、この人ほど五輪愛の強いキャスターはいないため。1964年の前回の東京五輪時には聖火ランナーも務めている。当時は中央大附属高の陸上部員で、100メートルを10秒9で走る好選手だった。過去には番組内で「五輪に出たかった」と語ったことがあるが、それはあながち現実離れした話ではなかったのだ。

「とくダネ!」のメーンキャスター就任から1年が過ぎた2000年のシドニー五輪の時は、放送のない週末になるたび、弾丸ツアーで現地入り。04年のアテネ五輪は日本勢による16個の金メダル獲得の瞬間をすべて現地で見届け、番組で詳報した。08年の北京五輪、12年のロンドンも現地から熱戦を伝えている。

「本人も番組側も東京五輪を花道にと考えたのは自然な流れだったと思います」(同・フジ情報制作局スタッフ)

 本来なら7月24日から8月9日まで開催されるはずだった。それが1年延期になったのは知られている通り。延期が発表された3月24日、代表選手たちは一様に戸惑っていたが、小倉氏も内心では困惑したことだろう。自分も1年続投するか、やはり勇退か――。

 フジは朝のワイドショーがウィークポイントになっていた時期もあるが、「とくダネ!」スタート後は視聴率競争の中心であり続けてきた。

「2014年から16年までは3年連続で年間視聴率がトップでした」(同・フジ情報制作局スタッフ)

 屋台骨を支え続けてきたのが小倉氏であるのは誰もが認めるところ。メーンキャスターのトーク部分も朝のワイドショーの中で一番長い。

「けれど小倉さんはワンマンではない。視聴率が良い時にはスタッフを讃えて、金一封を出してくれる。それを元手に関係者全員で旅行に行くこともありました」(同・フジテレビ情報制作局スタッフ)

 2016年と18年には膀胱ガンの手術を受け、18年の手術では膀胱を全摘したが、それでも小倉氏の番組への意欲は衰えなかった。常に意気軒昂。16年7月には放送回数が4452回に達し、同一司会者によるワイドショーの最長記録を樹立している。

 何が小倉氏を駆り立ててきたかというと、それが東京五輪なのだ。小倉氏はガン治療を受ける前も放送回数の記録達成時も「東京五輪を番組で伝えたい」と繰り返し語っていた。

 その目標が遠のいたため、小倉氏は悩ましい立場に置かれてしまった。五輪に合わせ、メーンキャスターを1年続投することはそう難しくないかもしれないが、後進に道を譲るタイミングを逸するのは避けたいはず。

 また、小倉氏本人は不安ナシとしているものの、やはり健康面は気になるところだろう。緊急事態宣言下の4月8日から5月26日まではスタジオ入りせず、自宅書斎からのリモート出演に切り替えた。大病を経験しているため、番組側が勧めたとはいえ、メーンキャスターのリモート出演は異例だった。また、73歳という年齢もあり、クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)を考えると、続投するか否かは悩ましいはずだ。

 いっそ五輪が中止になったほうが、小倉氏は割り切れたかもしれない。4月28日放送で小倉氏自身もこう語っている。

「今から中止って決めちゃえば(新型コロナ対策は)もっと思い切ったこともできるのかも」(小倉氏)

 あくまで新型コロナ対策に限定しての話だったものの、自分の思いも込められているように聞こえた。

 小倉氏を勇退か続投かで迷わせる理由はもう1つある。同じ時間帯のテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」への対抗心だ。やはり新型コロナ問題が関係する。

「とくダネ!」は長らく朝のワイドショー界をリードしてきたものの、2017年から昨年までの3年間は「モーニングショー」に年間視聴率トップの座を奪われた。

 今年こそ巻き返しを図るはずが、新型コロナ報道が一斉に始まった1月中旬以降、「モーニングショー」ばかりが数字を伸ばしている。水をあけられてしまった。このままの状態で後任にバトンを渡したくないという思いが小倉氏にはあるようだ。

「どの番組のキャスターもいい時に引き継ぎたいもの」(同・フジテレビ情報制作局スタッフ)

 最近は「モーニングショー」ばかりが政府批判で勇名を馳せているが、そもそも朝のワイドショーで各界への直言を始めたのは小倉氏なのだ。自分の考えを旗幟鮮明にしている。また、芸能スキャンダル報道を極力排し、社会派のワイドショーの先駆けとなったのも「とくダネ!」である。

 5月6日放送でも小倉氏の直言が聞けた。「学生支援緊急給付金」が閣議決定される約2週間前だ。

「勤労学生は多く、その20%から25%は授業料が払えないから学校を辞めることを考えているそうです。若い人たちの将来を奪ってしまっていいのか」(小倉氏)

 そんな小倉節が聞けるのは9月いっぱいまでなのか? 最終決定は6月中に出る見通し。勇退の場合、有力後任候補は伊藤利尋アナウンサー(47)と目されている。現在も小倉氏の右腕として番組に出演中。知性と愛嬌とを兼ね備え、「アミーゴ伊藤」の異名を持つ。

「モーニングショー」のメーンキャスターである羽鳥氏が元日テレのエースアナなら、伊藤氏はフジの現役エースアナ。報道、スポーツ、バラエテイーと幅広く経験しているところも共通している。年齢も近い。

 10月からは同世代アナ対決となるのか、それとも小倉氏がプライドを賭けて巻き返しを図るのか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年6月2日掲載

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