大阪の医療崩壊を巡り「大村」「吉村」知事が舌戦 大村知事が“難クセ”と言われる根拠

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大阪府に取材を申請

 さっそく引用させていただくが、4つのツイートのうち、1番と2番をまとめたほか、改行を省略するなどした。

《大村知事「ただ単に言い訳」って酷いね。確認したら、大阪の3次救急の4病院で一部救急停止したことを「医療崩壊」と言ってるらしいが、全く違う。これは4月21日救命センター長会議において、3次救急、特定機能2次救急(65病院)で救急受け入れ余力可能数を算定し(215名)、その範囲で公立4病院の救急を一時停止し、コロナ重症患者の治療に専念したもの。よって、役割分担をしてコロナの重症者にも、その他の救急にも対応した計画的措置。救急を断るものでも、「医療崩壊」でも何でもない。大村知事が事実関係も調査せずに、「大阪や東京は医療崩壊!」って謝罪もんだよ。》

《公立4病院でコロナ重症患者の治療の為に一部救急停止を決めたのは、4月7日~順次段階を追って進めていったが、4月21日のセンター長会議で、受け入れ可能数を算定、大阪全体でのコロナ重症患者の治療と他の救急との受け入れ可能数を総合調整。重症者の救急断り、オーバーフローは起きていないよ。》

《小池都知事、大村知事の“医療崩壊”発言を受け流す「東京に集中したい」(ABEMA TIMES)→この対応を見習うことにします。》

 ここで改めて、大村知事が「大阪府で医療崩壊が発生した」と主張した根拠を振り返ってみよう。ポイントは2点だ。

【1】4月末に大阪府では陽性患者が約900人発生したが、入院したのは約半分。自宅待機が200人を超えたのは、病院に入りきらなかったということを意味する。

【2】報道ベースでも、4つの救急救命センターが救急を断っているとあった。

 大村知事が言及した《報道ベース》の出典かどうかは不明だが、時事通信は4月18日、「大阪の3次救急、4病院が休止 コロナ重症者受け入れ―専門学会『医療崩壊の始まり』」との記事を配信した。

《緊急性が高く、命に関わる重篤な患者を受け入れる3次救急医療を担う大阪府内の4病院が、救急患者の受け入れを停止したり、一部制限したりしていることが17日、分かった。新型コロナウイルスに感染した重症患者の治療を優先するためだが、交通事故などで一刻を争う重篤な患者が救えなくなる可能性もある。専門学会は「救急医療の崩壊が始まっている」と危機感を強めている》

 少なくとも大村知事の見解に近い記事内容だとは言えるだろう。そして吉村知事がツイッターに4回も連続して投稿した反論は、この【2】についてだった。

 大村知事は「4つの病院で救急患者の受け入れを停止したのだから、立派な医療崩壊だ」と指摘し、それに吉村知事が「受け入れを停止したのは、あくまでも計画的な措置だった」と反論したというわけだ。

 それでは【1】についてはどうだったのだろうか。そこで改めて大阪府と大阪府の医師会に、大村知事の発言について取材を依頼することにした。

 先に大阪府医師会の取材結果からお伝えしよう。茂松茂人会長が電話での取材に応じてくれた。

 もちろん茂松会長は、大村知事と吉村知事の論戦を承知している。まず感想を訊くと、次のような答えだった。

「大阪府では病院と府の連携が非常にうまくいっているという実感を持っていましたので、大村知事の発言は率直に申しまして、ちょっとびっくりしました。当惑したという表現がいいかもしれません」

 そして大村知事による「自宅待機が200人発生した」との指摘に、「無症状や軽症の患者さんを振り分けるための一時的な措置でした」と説明する。

データは雄弁

 そもそも医師が「新型コロナウイルスに罹患した疑いがある」と診断し、PCR検査を実施する。

 陽性となった場合、重症患者、軽症患者、無症状患者など症状の度合いに加え、基礎疾患の有無、高齢か否か、妊娠しているかどうかなどを判断しながら、府は入院、宿泊療養、自宅療養と、患者を割り振っていく。

 PCR検査の結果は、夜遅い時間に出ることも珍しくない。入院や宿泊療養が決まった患者でも、行き先の調整がつかないケースもある。大阪府は、こうした患者を「入院調整中」と呼び、人数を広報している。

 具体的な数字を見てみよう。府に依頼し、入院調整中、宿泊療養、自宅療養のデータを示してもらった。

 データによると、入院調整中の患者数が最大となったのは4月27日で148人。この時、自宅療養患者は332人で、宿泊療養患者は135人だった。

 これが4月30日になると、入院調整中の患者数は79人に激減する。患者の割り振りが順調に進んだことが分かる。その結果、自宅療養患者は224人と減少し、宿泊療養患者は180人に増えた。

 ちなみに5月29日現在では、入院調整中の患者数は1人。自宅療養患者は8人で、宿泊療養患者は23人という具合だ。

「大村知事が指摘された『自宅待機が200人発生した』のは、こうした割り振りのプロセスで生じた患者数を誤解されたのではないでしょうか。本当に入院が必要で、感染力の高い患者さんに自宅待機をお願いしていたわけではありません。入院調整中の患者さんが148人に達した時でも、普通の病床は余力がありました。重症用の病床では、医師や看護師などのスタッフは人数がぎりぎりとなり、配置が大きな鍵になったこともありましたが、ベッド数自体は余力を残していました」(同・茂松会長)

 重症者用の病床数と使用率も、府に数字を出してもらった。重症患者が最大になったのは4月21日の65人で、この時重症用の病床は122床を確保していた。使用率は53・3%となる。

 それが4月30日になると、重症者は64人。病床の確保数は170床と増加し、使用率は37・6%にまで下落した。

 5月29日現在で重症患者の数は18人。病床は188床が確保されており、使用率は9・6%となっている。

 具体的な数字を見ると、やはり大阪府の推移を「医療崩壊があった」と指摘するのは無理があると言わざるを得ない。ファクトチェックを行ってみると、大村知事ではなく吉村知事に軍配が上がるようだ。

 大村知事も、愛知県民の危機感を持たせようと、ことさらに東京や大阪の現状を大げさに表現したきらいもある。

 いずれにせよ、日本の政治史で、今ほど都道府県知事に注目が集まったことはない。大村知事と吉村知事の舌戦がエスカレートした背景の1つではないだろうか。

週刊新潮WEB取材班

2020年6月1日掲載

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