好評だったNスペ「未解決事件 JFK暗殺」 専門家は「事実誤認が多い」と苦言

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問題が目立った翻訳

 奥菜氏が指摘した“ミス”は他にもあるが、紙幅の関係で割愛させていただいた。「episode 2」の“出来栄え”も同じで、ここでは2つの間違いをご紹介しよう。

 番組の開始から約38分が経過した頃、番組は「ウォーレン報告書の疑問点」を指摘していく。

 ケネディが暗殺されたのは午後12時30分。報告書に記載された「オズワルドの目撃証言」は、暗殺35分前の6階、暗殺から90秒後の2階にいた時の2回しかないと番組は主張する。

 ところが、逮捕後にオズワルドを尋問したFBI捜査官のメモには「パレードを見るために外へ出た」との供述が記録されている、と明らかにしたのだ。

 さらに《暗殺直前の12時25分、1階でオズワルドを見た》という同僚の証言も“発掘”した。そしてナレーションは《なぜこうした重大な情報が政府の結論から抜け落ちているのか》と疑問を投げかけた。

 だが、奥菜氏によると、どちらの証言も信憑性が低いという。

「メモに残されたオズワルドの供述は『11月22日の朝、倉庫ビルに仕事へ行った。昼は2階でコーラを買い食事を摂り、1階に戻って食事を摂り、パレードを見に外へ出た』となっています。しかし捜査の結果、昼食時にオズワルドを1階や2階で目撃した人は見つかりませんでした。NHKが注目した『パレードを見るために外に出た』というオズワルドの証言は、いわゆる“裏が取れていない”状態なのです」

 番組が《12時25分に1階でオズワルドを見た》という同僚の証言を紹介したのは、オズワルド証言における“裏取り”の役割を果たすと考えたからだろう。しかし、こちらの証言を奥菜氏は「2種類の書類の情報を繋げて翻訳していて、無理があります」と一蹴する。

「証言記録どころか、番組の紹介画像(39分36秒)を止めて見れば明らかですが、NHKが指摘した『12時25分』という時間は証言者が倉庫ビルを出た時間であり、オズワルドの目撃時間ではないのです。『1階でオズワルドを見た』は別の書類です。活字のスレが違うので、誰でもわかります。後の方の証言も正確に翻訳してみましょう」

 奥菜氏の翻訳は、「1階の食堂の二重のドアと入り口のドアのあたりのホールにリー・ハーヴェイ・オズワルドが立っているのを見た。それがオズワルドだったがはっきりしないが、彼だったと思うとして、時間は午後12時15分の数分前だと思うと言った」だ。

「12時15分と30分では15分も間があります。この証言から『オズワルドは12時30分にビル6階にいなかった可能性がある』と類推するのは無理があるので、別の証言書類をツギハギして裏付けとしたのでしょう」

 最後にご紹介するのは、まさに番組のラストで紹介されたエピソードだ。ナレーションが次のように言う。

《今回の取材で、オズワルドの知られざる言葉が掘り起こされた。事件の数か月前、あるスピーチの場で語られたものだった》

 そしてドラマ部分でオズワルドを演じた俳優、ジェイムス・ワトキンスがカメラに向かって「あなたがたは真実を知り、真実はあなたがたを自由にします(ye shall know the truth, and the truth shall make you free)」という一節を口にする。

「番組はこの後、この言葉の出典が新約聖書、ヨハネの福音書にあることを紹介します。そしてCIAの本部の壁に掲げられていたことも指摘するのですが、これを『知られざる言葉』と形容し、オズワルドとCIAの関係を象徴する材料に使うのは、さすがに無理があると思います。なぜなら、この言葉は聖書の中でも非常に有名な一節で、特に欧米社会では普通に引用される場面が少なくないからです」

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