小湊鉄道は人気のツイッター担当者をクビに…小さな鉄道会社のSNS活用法とは
緊急事態宣言で外出自粛の真っただ中、千葉県のローカル私鉄である小湊鉄道で騒動が起きていた。事の発端は、小湊鉄道が自社PRのために開設していた公式ツイッターアカウントが「ツイッター担当をクビにされた」とツイートしたことだった。
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小湊鉄道は、千葉県市原市の五井駅をターミナルに上総中野駅までの約39・1キロメートルを走っている。JR内房線と接続する五井駅を除けば沿線に大きな街はなく、オフィス・商店・工場も少ない。
そのため、小湊鉄道の利用者は沿線の学校に通学する高校生、自動車を運転できない高齢者が大半を占める。約77万年前の地層「チバニアン」が発見されて、最近は近隣の養老渓谷と一緒に巡る観光客も増えつつあった。しかし、コロナ禍で学校は休校、観光客も消失。これで、小湊鉄道は瞬く間に経営危機に陥った。
コロナ禍で苦しむ鉄道は、小湊鉄道だけではない。JR東日本・東海・西日本といった大手の鉄道会社も事情は同じだ。
コロナ禍以前から、小湊鉄道は決して楽観視できる経営状態ではなかった。新規の需要を創出するべくあの手この手の試行錯誤を繰り返してきた。公式ツイッターアカウントの開設も、沿線の魅力を伝えて少しでも乗客増につなげようという意図が根底にある。
今般、ツイッターやフェイスブック、インスタグラムといったSNSで情報を発信するのは、ほぼすべての鉄道会社が取り組んでいる。いまやSNSの発信に目新しさはない。
規模の小さな小湊鉄道は大手の鉄道会社と比べて知名度は低く、発信力も弱い。ツイッターアカウントで情報を発信しても、その影響力には限界がある。同じ土俵で戦えば、大手の後塵を拝することは明らかだろう。
それは小湊鉄道も十分に承知していた。だからこそ、小湊鉄道の中の人は自分なりに工夫を重ね、大手の鉄道会社と一線を画したツイートを連発していく。
鉄道会社らしくない、歯に衣着せぬ小湊鉄道のツイートはすぐにファンを虜にした。それが評判を呼び、ローカル私鉄ながらも小湊鉄道のツイッターアカウントは、フォロワー1万7000を超えるまでに成長する。
しかし、奇をてらったツイートは諸刃の剣でもある。尖ったツイート内容が社内でハレーションを起こし、小湊鉄道のツイッター担当者は交代させられる憂き目に遭った。
中の人交代劇は、経営陣とファンをも巻き込んだ騒動に発展。ツイッター担当者が「好き勝手にツイートした」という交代の理由を明かしたことも事態を大きくした。
エッジのきいたツイートを連発して注目されている鉄道会社は、小湊鉄道だけではない。前述したように、地方のローカル私鉄は大手鉄道会社と同じ土俵で争っても勝ち目がない。せっかくSNSで情報発信をしても、それが埋没しては意味がない。できるだけ目立つ必要がある。そうしたことから、奇襲とも思えるようなツイッター運用で、人目を集めることに腐心している。
香川県高松市を拠点に約60・0キロメートルの路線網を有する高松琴平電気鉄道(ことでん)も、エッジの効いたツイッター運用で知られている。
ことでんは、2001年に経営破綻。その後、新体制下で経営再建を目指すが、その際に広報戦略方針を大幅に転換する。
新たな広報戦略として、ことでんはマスコットキャラクター「ことちゃん」を誕生させた。ことちゃんは親しみやすいイルカをモチーフにしたゆるキャラだが、その愛らしい見た目に反して、自由すぎる振る舞い、過激とも思える発言をする。それを表しているのが、昨年5月に発売された新元号記念の限定ICカードの券面デザインだろう。
新元号の「令和」を発表したNHKの生中継では、菅義偉官房長官が手にした色紙が手話通訳者のワイプとかぶった。歴史的な瞬間を台無しにしたハプニングだったが、ことでんはこれを巧みに利用。新元号の令和を記念して発売されたICカードの券面には、そのときのシーンが描かれている。ハプニングをパロディ化した券面は、ことでんの攻めの姿勢、ことちゃんの天衣無縫さを窺わせる。
ことちゃんはことでんの公式マスコットキャラクターだが、ことちゃんのツイッターはことちゃん自身がツイートしているという建前をとっている。つまり、ことちゃんのツイートは会社の公式見解ではないのだ。
それは、事故や気象条件によってダイヤが乱れてもことちゃんのアカウントから運行に関する情報を発信しないことからも窺える。あくまでも、ことちゃんが自由につぶやいているという体裁を貫く。
小湊鉄道やことでんといった異次元のツイートで存在感を高めようとする地方鉄道のアカウントがある一方、厳格なツイッター運用をしているのが函館市電のアカウントだ。
函館市は2003年まで市バスも運行していたが、不採算を理由に撤退。以降、市営交通は函館市企業局交通部が運行する約10・9キロメートルの函館市電のみになった。
函館市企業局交通部、実質的に函館市電のアカウントは、ツイート数がとにかく少ない。その理由は、ツイ消しをしているからだ。
ツイッター運用において、自身のツイートを削除する“ツイ消し”はあまり好まれる行為ではない。
しかし、函館市電のアカウントは日常的にツイ消しを繰り返している。そのため、ツイッターに表示されている函館市電の情報はかなり少ない。
これは函館市電が情報発信に消極的だから、ではない。函館市電は混乱防止を第一義にしてツイ消しを繰り返している。
函館市電のアカウントからツイートされる情報は、遅延や運休といった利用者がリアルタイムで把握したい内容が多い。しかし、ツイッターにはリツイート機能などが実装されており、それによって情報は無限大に拡散されることがある。すでに遅延が解消していても、リツイートで古い情報が利用者に届けば、誤った情報が混乱の原因になる。そうした混乱を最小限に抑えるため、「古くなったツイートは消す」「できるだけ、無用なツイートはしない」という運用方針を定めている。函館市電は、そういう運用方針を頑なに守っている。
路面電車は地元密着の公共交通だから、大々的にPRしても利用者増にはつながらない。そんな見方もあるだろうが、函館市電に限ってそんなことはない。函館市電には春から晩夏にかけて「箱館ハイカラ號」という観光列車が走っている。また、沿線には魅力ある観光名所も多い。
函館市電を取り巻く状況を鑑みれば、SNSによる情報発信を盛んにすることによって観光客を取り込むことができるだろう。しかし、函館市電はあくまでも抑制的なツイッター運用を続ける。
小湊鉄道・ことでん・函館市電など、同じ地方の鉄道でもツイッターをはじめとするSNS運用のスタンスはこれだけ異なる。
いまやSNSは無視できないほどの影響力を持ち、保守的とされる鉄道会社を揺り動かした。利用者減に悩む鉄道会社は、SNSを活用することで存在感を高め、生き残りを模索する。
そして、コロナ禍によって新しい生活様式が提唱された。当然ながら、鉄道とインターネットとの関係にも変化が生じている。SNSと鉄道会社との関係性は、新局面を迎えようとしている。