デジタル捜査班長が伝授、ストーカー・誘拐から身を守る術 スマホを落としただけで…
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これに加えて、冒頭の「SIMカードをロックする」まで行っている方は少ないのではないでしょうか。SIMカードとは、スマホに装着されている、加入者を特定するためのICカードのことで、その中には契約者の識別番号や電話番号などの情報が記録されています。どれほど複雑なパスワードでスマホ画面にロックをかけていたとしても、SIMカードにロックがかかっていなければ、別のスマホに挿し替えるだけで、契約者になりすまして電話やインターネットが利用できてしまいます。あなたの契約した回線は犯人のスマホの回線に置き換わり、本来あなたのスマホに届くはずの各種の通知も犯人のスマホに送られるようになる。そこからいくらでも情報を抜き取ることはできるのです。
こうした不正利用を防ぐために有効なのがSIMカードのロックで、例えば、iPhoneでは、「設定」→「モバイル通信」→「SIM PIN」→「SIM PIN」をオンで、暗証番号の入力を求められます。ここで携帯会社ごとに定められている「初期値」を入力するとロックができます。その後、これを他人にわからない暗証番号に変更して完了です。Androidのスマホでも、もちろん設定は可能です。ここまでやれば、もしスマホを落としたとしても、犯人は別のスマホであなたの契約している回線を利用できません。SIMカードをロックすると、電源を切って再起動する際、設定した暗証番号を入れなくてはならず、いちいち面倒くさいかもしれませんが、転ばぬ先の杖と言えます。
スマホ紛失で何より恐ろしいのは、世の中に悪意を抱いている人に拾われた場合。金など関係なく、単に嫌がらせでネット上にスマホの写真やデータをばらまくかもしれない。連絡先にある人々にさまざまな攻撃を仕掛けるかもしれません。
こうしたロック強化は必須として、いくらそれを強化しても、あなた自身が自分の情報を外部に漏らしてしまえば意味がない。
時代は「SNS」花盛り。
皆さんもFacebookやTwitter、InstagramやLINEなどのSNSを使用していることでしょう。が、そこでの気軽な投稿に危険が潜んでいるということも知られるようになってきました。
最近のネット犯罪で衝撃を与えたのは、アイドル活動をしている女性を襲った男が、SNSに投稿された自撮り動画の瞳に映った景色を手掛かりに、女性の住所を特定していたことです。
私の知るケースでも、女子高生が自宅で撮った制服の自撮り写真を、“鍵”をかけず、つまり、許可した人にしか投稿を見せない設定にせずに、Twitterにアップしたところ、その一枚の写真をきっかけに自宅まで割り出され、ストーカー被害に遭った例がありました。
まずは、その写真が「かわいい女子高生を集めたまとめサイト」に転載されました。そこで興味を持った男性が検索を開始します。写真に写り込んでいたお守りから、ある都道府県にある神社のお守りであることを特定。Twitterに「○○線止まった」という投稿があったことから、通学路線を特定。路線と制服の柄から高校を特定。さらには、「部屋から見える夕焼け」の投稿にゴルフ練習場が写り込んでいたことから、自宅周辺の範囲も特定。「塾帰りにコーヒー買った」という投稿に写り込んでいたコンビニの看板にあった店名からさらに住所の範囲を絞りこむ。「隣の歯医者に行ってきた」という投稿から、自宅を特定、といった具合です。以後数カ月後に逮捕されるまで、執拗なストーカー行為に及んだのでした。
このケースではTwitterのアカウントに鍵をかけず、個人の特定につながる情報を発信したことが引き金になりました。SNSの世界を見ていますと、プライベートな使用でも鍵をかけていないアカウントがかなり目立ちます。これでは泥棒に家に入ってくれと言っているようなものです。
更には、特定できるような情報を出したつもりはなくても、前出の「瞳に映った景色」のように思わぬところから特定されてしまうこともあります。最近のスマホはカメラの性能がものすごく良いですから、驚くほど高解像度で写ります。隅に写ったマンホールや電信柱で住所を特定されてしまうこともあるのです。
また、本人の投稿には情報がなくても、「いいね!」をつけた友人たちのページに飛んでいけば、それぞれのプロフィールを確認できることもある。多くが同じ学校の生徒で、コメント欄に「○○、かわいいね」など、投稿者の名前を記してあれば、これだけで学校と名前くらいは簡単に特定できてしまうのです。
犯罪者は常に“獲物”を探しています。私が刑事だった頃、中2の女子生徒の誘拐事件がありました。この少女が父親とのトラブルで「家出したい」と掲示板に書き込んだところ、わずか10分で20人の男性から「手伝うよ」とレスポンスがあったのです。昨年も、高須クリニックの高須克弥院長がTwitterで「明後日から台北」と呟いたところ別宅に空き巣が侵入し、3400万円相当の被害が出ました。
SNSに鍵をかけるのは当然として、自撮り写真や個人の特定に繋がるような投稿も避けるべきです。
更に言えば、夫婦や、恋人間でSNSパスワードの共有をしている人も少なくない。セキュリティ会社「カスペルスキー」などの調査によれば、日本では20%弱が共有しているそうですが、男女の仲は永遠ではありません。うまくいっているときは勝手にロックを解除されても困ることはないかもしれませんが、前出の調査では、交際相手と別れた後に「復讐として相手の個人情報を公開した、または公開したいと思った」と回答した人は全体の12%。回答者の31%は別れた後もSNSを通じて相手を監視しており、21%が「アクセス可能な相手のアカウントで相手を見張った」としています。関係が悪化すると、スマホは一転、リベンジの武器に変わる恐れがあるのです。
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