全公演中止の舞台「桜の園」、それでもギャラを払う“シス・カンパニーの心意気”
コロナ禍でドラマや映画の撮影が延期、中止に追い込まれているが、最も大変なのは演劇などの舞台だろう。團十郎の襲名興行はもとより、劇団四季など大小問わず、公演延期・中止となっている。中小規模の舞台に出演を予定していた俳優からは「公演がキャンセルされ、収入がなくなった」と悲鳴が上がっている。そんな中、中止された舞台の出演者、スタッフにギャラを満額支払ったカンパニーがあった――。
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4月4日から1カ月、シアターコクーンで公演されるはずだったのが、チェーホフの「桜の園」である。出演者は、大竹しのぶ、宮沢りえ、井上芳雄、黒木華、杉咲花、生瀬勝久、鈴木浩介、野間口徹、藤田秀世、西尾まり、半海一晃、山崎一……。
上演台本と演出は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ。13年の「かもめ」に始まるチェーホフ四大戯曲上演シリーズ(15年「三人姉妹」、17年「ワーニャ伯父さん」)が、これで完結するはずだった。演劇評論家の萩尾瞳氏が言う。
「本当に楽しみにしていた舞台でした。当初は初日(4日)から12日までの公演中止と発表されましたが、6日に全公演の中止が発表されました。ただし、本番前日まで稽古を続けていたと言います。ゲネプロ(通し稽古)をやったとは聞いていませんが、今回の舞台への期待は大きかった。原作を踏まえつつも、人間性を多面的に描き、人への温かみのあるからかいが面白いケラさんの台本を演じるのが、大竹しのぶさんに宮沢りえさん、さらにミュージカルのプリンス・井上芳雄さんですからね、それぞれがチケットを即日完売にできる人たちです。それに黒木さんもいれば、初舞台の杉咲花さんもいる。世代を代表する女優たちのそろい踏みと言っていい。大竹さん演じるラネーフスカヤは、借金で実家が大変なのに、恋人のことしか頭にないという女性。彼女の可愛らしさがどう活きるかも興味深かった……それだけに中止は残念です。これだけのキャスティングですから、皆さん数年先までスケジュールは埋まっているでしょう。コロナが収まったからといって、すぐに再演できるはずもない。すでにセットも壊しているでしょうし、衣装だって使えるかどうか。またやるにしても、最低でも3年はかかるかもしれません」
主演の大竹しのぶは朝日新聞の連載で無念を訴えた。
《無念だ。無念という言葉の意味を今、初めて知った気がする。
4日に初日を迎えるはずだった舞台「桜の園」の全公演が中止になった。2月17日から稽古が始まり、皆と一緒に積み上げてきた芝居は、緊急事態宣言が発令される直前に中止が決まった。(中略)稽古当初、「幻の名作と言われるかもしれないね、観られなかったけど、凄かったらしいよって」と冗談で笑いながら話していたっけ。4月になれば、完全に芝居はできるとタカをくくっていた……」(「朝日新聞」4月10日付)
演劇誌の記者が言う。
「舞台の稽古は、週6日、午後1時から7時くらいまで行うのが一般的です。稽古に入る前に中止が決まったのならまだしも、2カ月近く稽古を続けて、初日から中止ですからね。ショックは大きいでしょう。前評判も高く、チケットは即完売でした。シアターコクーンの座席数は747席、チケットの平均価格でザッと計算しても、1カ月公演で2億3000万円くらいになります。もちろんすべて払い戻し。会場使用料も、セット、衣装などにかかったお金も、すべてがパーです。ですから、出演者、スタッフにもギャラが支払われないケースがかなりある。ところが、驚いたことに、『桜の園』を企画・製作したシス・カンパニーは、出演者、スタッフにギャラを支払ったといいます。もちろん、一度も公演していないのですから、全額というわけにはいかないでしょうけどね」
シス・カンパニー代表の北村明子氏に聞いた。
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