コロナ禍の同調圧力と反政権ファッション(中川淳一郎)

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 他人と同じことをやるのが恥ずかしいんです。コロナ禍の中、自分が影響を受けた本をSNSで紹介する「ブックカバーチャレンジ」や、自宅で腕立て伏せをする様子を動画で公開する「バトン」もイヤ。「バトン」というのは何かをやった後に誰かを指名し、同じことをやってもらうことです。

 2000年代半ば、mixiでもバトンはありましたが、強制性を感じる人が多かったこともあり、いつしか廃れました。コロナ禍で再び復活したのですが、芸能人の間でも歌、ギャグ、おにぎり、コスプレなどを繋ぐ流れが生まれました。しかしオリコンニュースが「同調圧力? 芸能界も“バトン疲れ”、SNSで求められる“繋がり”の弊害」という記事を出すなど、この現象に対して辟易する人が登場したことも伝えています。

 私はこの手のものは全部断るようにしています。この流れに乗ることさえダサいと感じるんですよね。別に私が腕立て伏せをする動画を流して誰が喜ぶのでしょうか。医療従事者や感染者を救うのでしょうか?

 そして「#検察庁法改正案に抗議します」がツイッターで470万件投稿されたことが話題になりました。この現象について、とある新聞社から「今回は芸能人も多くかかわりましたがどう分析しますか?」という質問を受けました。

「アベの独裁を手助けする黒川弘務検事長の定年延長に怒る市民が大勢いて、政治的発言がタブー視されてきた芸能人もついに怒りの声をあげた!」という論調で記事を書きたかったのだと思います。

 しかし、私の答えは「芸能人も暇だったんじゃないですか? 仕事がないから何らかの話題づくりとして乗っかった。ネタ枯れ状態のスポーツ紙が記事で紹介してくれれば左派から拍手の嵐になりますから」というもの。

 当然こんなコメントが使われるわけはない。ですが、「芸能人が政治について述べるのは海外セレブ風でカッコいい!」的な風潮も広がってきているような気がします。芸能人にとっては、政治的スタンスを表明することも同調圧力になっているのでは。

 今回、きゃりーぱみゅぱみゅなど意外な人も参戦しましたが、コロナ対応でグダグダに見える政権への批判なら許される、という空気を読んだようにも思えます。逆に、4月には、糸井重里、サンドウィッチマン伊達みきお、スガシカオ、山下達郎氏らが「今は文句を言うのではなく協力し合う時だ」的な発言をしたら「政権を支持するのかお前は!」とばかりに左派からボコボコに叩かれた。

 今回、政府の動きに反対の声を上げた有名人の方々は、「反政権ファッション」をしているように感じられました。それは、アメリカでトランプ氏に著名人が反対するのが称賛を浴びた、という前例を知っていたからこそのものかもしれません。でも、どうせ反対するなら、別の形で表明すればカッコいいのに。例えば、「政府の対応に不満がある医療従事者を今年の冬、ライブに無料招待します」とか。MCでは政権の悪口を言いまくり「イェ~!」と観客も絶叫。

 海外セレブ流に憧れる日本の芸能人、もうすぐ「養子ブーム」「ビーガンブーム」が来るんじゃないかな。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2020年5月28日号掲載

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