韓国で巨大クラスターが続々発生 「文在寅が威張るたびに感染爆発」と顔をしかめる人も…

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教会の礼拝を「弾圧」

 そもそも3月21日に韓国政府が「禁・3密」を発表、翌日から実施していました。宗教施設、屋内体育施設と並び、大型のナイトクラブを営業する際はマスクの使用と、人と人の距離を2メートルとるよう義務付けていたのです。

 しかし朝鮮日報によると、規制はかなりいい加減で、政治的だったようです。「コロナ取り締まりの公務員…クラブの前には4人、教会前には500人」(4月6日、韓国語版)の前文を翻訳します。

・500人VS4人――。4月5日、同じように数百人が集まった大型教会と、ナイトクラブに「コロナ感染防止」のために、それぞれ投入された公務員の数だ。
・実際、教会には500人が投入されたが、「4人」は地方自治体が主張した数字で、見た人はいなかった。「防疫」ではなく「政治だ」との批判が高まる。

 この記事によると、同日朝9時半、ソウル市内のある教会に市・区の職員120人が出動。警察官400人を背に礼拝に集まった信者に対し「人の間隔が確保されていない」ことを理由に集会禁止の行政命令を出しました。

 双方がマイクの音量を上げて闘った末、最後は職員が教会に入って礼拝の状況を写真に撮った。そのうえ、「参加した信徒を全員告発する」と捨て台詞を吐いて帰ったそうです。

 一方、同日夜、あるナイトクラブには数百人が集まったのに規制は一切なし。ソウル市に問いただしたら「4人の職員が管内を巡回した」と言うだけで、ちゃんとした答えはなかったというのです。

 クラブに入店するときはマスクの装着が義務付けられますが、店の中で付けている人はまず、いないそうです。完全な「3密」のうえマスクなしで歌い、激しく踊るのですから、感染リスクは極めて高い。

 実際、朝鮮日報が「政治的規制」と批判して1か月もたたないうちに、クラブで巨大なクラスターが発生したのです。

反・文在寅の牧師は拘束

――なぜ、「政治的」なのでしょうか?

鈴置:教会の信者には保守的な人が多い。4月15日の総選挙を前に、反・文在寅(ムン・ジェイン)的な集会は、新型肺炎を理由に取り締まりたかったと保守は見ています。

 この政権は2月には屋外集会を禁止し、強行した反・文在寅運動の指導者である牧師は拘束済みです(「新型肺炎『文在寅』弾劾 “習近平に忖度するな、中国からの入国を全面禁止せよ”と保守」参照)。

 一方、クラブを厳しく取り締まれば若者から不満が噴出し、選挙に不利と読んだのでしょう。

――では、感染拡大は文在寅攻撃のチャンスに……。

鈴置:拡大の規模によると思います。「韓国は『防疫の模範』が裏目でクラスター、それでも『世界を先導』という自己暗示」でも説明しましたが、多くの韓国人が「世界1の防疫模範国になった」「日本を抜いて先進国入りした」と洗脳されています。

「文在寅政権の失敗」とは「先進国入りに失敗」を意味します。保守はよほどタイミングを見極めて政権攻撃しないと、「先進国入りした」と大喜びしている国民から反発を買ってしまうのです。

「K防疫」は恥ずかしい

――そのタイミングは?

鈴置:もう少し先、といった感じです。まだ、感染爆発という状況には至っておらず、韓国人も「世界から尊敬されている」と依然、信じているからです。

 ただ、朝鮮日報が「布石」的な記事を載せています。イ・テドン東京特派員が書いた「『他人の模範』から『反面教師』に」(5月18日、韓国語版)です。要約します。

・韓国が感染を上手に抑え込んだために、日本では「韓国を見習え」との声が高まった。しかし最近、「韓国は反面教師だ」との評価に急変した。
・自治体と一部の若者の油断によって梨泰院で集団感染が発生し、感染者が二桁になったからだ。いろいろと注目を集める「K防疫」。こんなお手本になるのはうれしくない。

 この記事の批判の矛先は「自治体」――ソウル市ですが、市長の朴元淳(パク・ウォンジュン)氏は左派で、次の大統領を狙う1人です。

 文在寅大統領が世界に向けて誇る「K防疫」という単語を使って皮肉っていることからも、身代わりにとりあえずソウル市を叩いている感じです。

 読者も多くが文在寅批判という前提で読んでいて「数日前『K防疫』が世界の模範などと自画自賛。NHKが面の皮の厚さを冷笑していた」などと書き込む人もいました。

 韓国の保守の中には、文在寅大統領が世界に向かって「韓国すごいぞ」と誇るのを恥ずかしがる人もいるのです。「あの男が世界に向けて威張るたびに感染爆発が起きる。もう、やめて欲しい」と日本人にこぼす人もいます。ネットでもそうした意見に出くわします。

瀬戸際の感染爆発

――「威張るたびに感染爆発」とは?

鈴置:2月13日、文在寅大統領は財界人を集め「防疫当局が最後まで最善を尽くしているので、新型肺炎はまもなく終息するだろう」と豪語しました。その6日後の2月19日に大邱で感染爆発が確認されました。

 5月10日、文在寅大統領が「我々は防疫で世界を先導する国になっています。K防疫は世界標準になったのです」と演説しました。2日前の5月8日に梨泰院の集団感染が判明し結局、今の惨事につながっています。

 今回の集団感染が、感染爆発と呼べるほどに巨大化するかは分かりません。グラフを見るに、今が瀬戸際でしょう。

 でも、「大統領が威張るたびに悪いことが起きる」のは事実。韓国人とすれば、大統領の口に蓋をしたくなるのも当然なのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年5月29日掲載

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