第二、第三の吉村洋文知事を探せ… コロナ禍で奮闘する知事「5人」の素顔

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杉本達治・福井県知事(57) 2019年初当選 1期目 年間報酬1970万円(推定) 

 全国的にマスクの品薄状態が続いていた4月19日、県内全世帯にマスク購入券を配布すると発表。購入券は同23日から郵送された。この券を県内のドラッグストアに持参すると、50枚入りボックス(税込2350円)が2箱まで買えるようにした。

 首都圏では楽観ムードが強かった2月18日、県庁に感染症学の権威として名高い岩崎博道・福井大医学部教授を招き、県と市町村職員を対象とする研修会を実施。岩崎教授は「うがいやマスクより、手洗いをしっかりするほうが感染を防げる」と、具体的な予防法などを説いた。

 県内感染者が42人に達した4月3日には緊急会見を開き、県民に対し、感染が広がっていた首都圏や関西圏との不要不急の往来の自粛するよう要請。また、平日夜間と週末の不要不急の外出も控えるよう呼び掛けた。

 国の緊急事態宣言が全都道府県に拡大される2日前の4月14日、県独自の緊急事態宣言を発出。平日夜間と週末に限定していた不要不急の外出自粛要請を、平日昼間も含めた終日に広げた。また、ほかの都道府県からの不要不急の来県も自粛を求めた。

 事業者への休業要請は4月25日から。業種は飲食店、劇場、パチンコ屋など約100業種におよんだ。ただし、関西電力の大飯発電所など原発は対象外に。社会生活の維持に必要な施設と判断した。

 9月入学制度については「反対ではないが、冷静な議論が必要」と発言し、慎重な構え。

 岐阜県中津川市生まれ。進学校の同県立多治見北高から東大法学部に進み、卒業後の1986年に当時の自治省に入省した。総務大臣秘書官などを務めた後、2004年に福井県に出向し、総務部長に就く。内閣参事官などを歴任した後の2013年には再び福井県に出向し、今度は副知事に就いた。

 2018年、退職。翌19年の知事選に出馬した。ライバルは知事を4期務めた現職で、かつての上司であり、自治省の先輩でもあった。その上、どちらを支援するかで自民党県議が分裂。最終的に自民党本部は杉本知事を推薦した。

 原発に絡む金品受領問題が起きた関西電力に対しては今年3月、「地元との信頼関係は完全に地に落ちたと、肝に銘じてほしい」と猛省を促した。

 家族は夫人と1男1女。座右の銘は「人に処すること藹然」(中国古代の格言「六然」の1つ。人にはいつも和やかでいなさいという意味)。

平井伸治・鳥取県知事(58) 2007年初当選 4期目 年間報酬1614万円(2018年)

 感染拡大によって全国的に文化や芸術のイベントの中止・延期が相次いでいた4月2日、県として文化・芸術を支援すると表明。県内の会場で無観客公演を行い、ネットでライブ配信する場合、その経費の一部などを補助すると発表した。

「文化芸術は生活に必要なインフラの一つ」(平松知事)

 4月7日に東京など7都府県で国の緊急事態宣言が発出されると、翌8日に対策本部会議を開く。その中で、7都府県から県立学校に転入する生徒は14日間にわたって出席停止とすることを決めた。同時に、該当生徒の学習はオンライン教育で行う方針も固め、親と生徒の不安を和らげた。

 国の緊急事態宣言が鳥取県を含めた全国に拡大した4月16日、「(新型コロナ対策は)全都道府県でスクラムを組んでやっていく必要がある」と理解を示す。当時、県内の感染者は1人に留まっていた。

 生まれたのは東京・外神田。東大合格者数トップの開成高から東大法学部に進み、1984年に卒業すると、当時の自治省へ。90年には福井県に出向し、財政課長などを歴任。自治省に戻り、税務局企画課理事官などを務めた後の99年には鳥取県に出向。総務部長を経て、39歳の若さで副知事に就任した。

 その後、総務省ニューヨーク事務所長などを務め、2007年に退職。翌08年、知事選に出馬し、初当選。自民、公明の両党から推薦を受けた。19年の前回選挙では立憲民主党、自民党県連、国民民主党県連、公明党県本部から推薦を得た。

 2012年にはスターバックスが隣県の島根に進出したため、全国で唯一、スタバのない都道府県に。その際、テレビ局から感想を求められると、「スタバはありませんが、日本一のスナバ(砂場=鳥取砂丘)があります」と答え、話題に。県の存在感アップに一役買った。

 単なるダジャレのように思われたが、その言葉にはスタバがないことを冷ややかに見るほうがおかしいという反骨精神が込められていたという。ただし、スタバは2015年には県内にも出店。現在は4店舗ある。

 人口は約69万5000人。全都道府県の中で最も少ない。それも背景にあって、「移住定住支援」「子育て支援」に熱心。医療費や保育料を助成している。保険適用外の不妊検査も全額助成する(条件は35歳未満か結婚3年以内)。また、高校生の通学定期券代も助成している。

 18歳未満の子供を育てている親には「とっとり子育て応援パスポート」を発行。これを協賛店舖で提示すると、商品などの割引などが受けられる。店舗によっては授乳室の利用も出来る。

 ひとり親支援にも力を入れている。ひとり親が生活援助や保育援助を必要とする場合、家庭生活支援員を派遣。中高生の学習サポートや、ひとり親の就職や資格取得の支援なども行っている。

 家族は夫人と2男。座右の銘は「人は城、人は石垣、人は堀」。

中村時広・愛媛県知事(60) 2010年初当選 3期目 年間報酬1951万円(2018年)

 2月24日、集団感染が起きたダイヤモンド・プリンセス号から降りた乗客のうち、愛媛県在住者は7人だと県が発表。その全員のPCR検査を行い、感染者はいないことを確認した。

 7人のうち、5人は2月20日に下船し、同21日に2人が下りていた。だが、厚労省から県に名前や連絡先などを知らせたのは同23日未明。中村知事は翌24日の記者会見で、「遅いんじゃないか」と不信感を表した。

 県内で初の感染者が確認された3月2日には、県立衛生環境研究所での検査態勢を強化すると表明。1日に可能な検査数を約20件から40~80件に増やすと明言した。

「万全の対策をしたい」(中村知事)

 3月24日には医療体制の充実や経済支援などの緊急措置のため、補正予算計97億6147万円を専決処分(予算やなどを知事が議会の議決を経ずに自らの権限で決定すること)している。

 愛媛県を含む39県では国の緊急事態宣言が5月14日解除されたものの、その直前に松山市の病院で職員と患者計20人の集団感染が発覚。このため、愛媛の宣言解除には、この感染経路を徹底調査し、国に報告するという条件が付けられた。

「20日間は封じ込めに成功していたが、一夜にしてこういうことが起こる。これがコロナなんだとあらためて痛感した」(中村知事)

 松山市生まれ。幼稚舎から慶應に通い、1982年に慶應大法学部を卒業。三菱商事に入社し、燃料部門に勤務する。87年に愛媛県議会議員選挙に出馬し、初当選。90年には衆院選に旧愛媛1区から出馬するが、落選。93年衆院選で再び同区から日本新党公認で出馬し、当選する。

 94年に日本新党が解党されたため、新進党へ。96年衆院選に愛媛1区から出馬したものの、落選。99年、松山市長選に出馬し、現職を破って当選。父・中村時雄氏も元松山市長であり、2代続けて市政を担う。

 2010年には知事選に出馬し、当選。自民党県連、公明党県本部が推薦し、民主党県連が支持、社民党県連が支援した。18年11月の前回知事選では自民、国民民主の両党県連が推薦し、公明県本部が支持した。

 同年4月、今治市に設置された岡山理科大獣医学部について、計画段階で県や同市の職員が首相官邸で柳瀬唯夫首相秘書官(当時)と面会したとする県文書の存在が発覚。だが、政権側は面会を否定し、柳瀬氏も認めなかった。

 県職員と文書に疑念が向けられる形になったため、中村知事は同5月に職員が受け取った柳瀬氏の名刺を公開。その際、「県の信頼にかかわる」「(地方公務員にも)誇りやプライドもある」と声を強めた。中央政界、官界に物申す知事として知られるようになった。

 家族は夫人と1男。座右の銘は「至誠通天」

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 新型コロナ禍の収束の日まで知事たちの奮闘は終わらない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年5月25日掲載

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