第二、第三の吉村洋文知事を探せ… コロナ禍で奮闘する知事「5人」の素顔
今ほど都道府県の知事がクローズアップされている時代はない。新型コロナウイルス対策に関する権限の多くを知事が握っているからだ。国による緊急事態宣言が解除されようが、知事と新型コロナとの戦いは終わらない。5人の知事の奮闘と横顔を点描する。
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達増拓也・岩手県知事(55) 2007年初当選 4期目 年間報酬1789万円(2018年)
岩手県は全国の都道府県の中で唯一、新型コロナの感染者が確認されていない(5月20日現在)。運や偶然ではないようだ。いち早く対策に着手していた。
五輪聖火リレーのリハーサルが東京で華々しく行われた2月15日から3日後の同18日、達増知事は自分を本部長とする新型コロナの対策本部を設置した。東京など7都府県に緊急事態宣言が発出されるより8日早い3月30日には「東京、神奈川、埼玉から来県する方は2週間、不要不急の外出を自粛し慎重に行動していただきたい」とアナウンスした。
その2日後の4月1日、今度は県民に対し、東京などで1泊以上して戻ってきたら、2週間は不要不急の外出を自粛するよう要請している。
一方、4月17日には出産のために千葉県から里帰りしていた女性が、破水して緊急搬送された際、2つの病院が受け入れを拒むという問題が発生。3番目の病院が、PCR検査によって陰性を確認した上で、帝王切開手術を行ったものの、批判の声が上がった。
達増知事は事前に「医療機関の受診は必要な外出なので、不要不急ではありません」「医療機関の皆様は適切な感染症対策を行った上で、通常通りの診療をお願いします」と説いていた。だが、その認識は医療現場に浸透していなかった。
小池百合子・東京都知事らが賛同する9月入学制度には慎重な姿勢。「(休校しても)教科を履修できる抜本対策こそ国に求めるべき」と主張している。
5月15日の会見で検察庁法改正案について問われると、「(改正案を)国会審議から捨てて、新型コロナウイルスへの対策に集中すべき」と発言。同18日、改正案の今国会での成立は見送られたのは知られている通りだ。
生まれは盛岡市。県内屈指の名門校である県立盛岡一高から東大法学部に進み、1988年に卒業すると外務省へ。在米大使館書記官や大臣官房総務課課長補佐などを歴任。在職中に国費で米国ジョンズ・ホプキンス大国際研究高等大学院を修了した。
1996年の衆院選に岩手1区から出馬し、初当選。岩手県は、かつて「小沢王国」と呼ばれ、今でも小沢一郎・国民民主党総合選対本部長相談役(77)の影響力が強いが、達増知事の衆院選出馬も小沢氏が当時、党首を務めていた新進党からだった。以降、4期連続当選を果たす。
2007年、やはり小沢氏が代表だった民主党の推薦で知事選に出馬し、自民党推薦候補らを大差で破って当選した。19年の前回知事選では立憲民主、国民民主、共産、社民の各党から推薦を受け、自民党と公明党県本部の推薦を受けた候補を退けた。
知事1期目の2009年には県議会本会議で土下座している。08年度補正予算案を議会に提案したが、野党議員による減額修正案が賛成多数で可決してしまい、原案通り認めるよう再議(事実上の拒否権)を求めたからで、土下座した理由を「礼を尽くさせていただいた」と説明した。
家族は陽子夫人と一男。陽子夫人は、小沢氏が所属していた日本未来の党公認で2012年の衆院選に岩手1区から出馬し、落選した。
好きな言葉は「浩然の気」(「孟子」より。天地にみなぎっている、万物の生命力や活力の源となる気のこと。義を行う時に感じられる)。
谷本正憲・石川県知事(75) 1994年初当選 7期目 年間報酬1977万円(2018年)
3月26日に東京、神奈川、千葉、埼玉、山梨の1都4県の知事が、不要不急の外出を控えるよう住民に求めた。それから一夜明けた翌27日、谷本知事は都民らに向けて「無症状の人は、石川県にお越しをいただければ」と呼び掛けた。
この発言が、県内の感染拡大を招きかねないと批判される。支持基盤の自民党県連からも「観光産業を考えると、一定の理解は出来るが、県民への誤ったメッセージになりかねない」などと苦言を呈された。
その後も自粛には消極的だったものの、県内での感染者が増え続け、80人を超えた4月6日になると、県民に対し外出自粛を要請。県立学校の臨時休校にも踏み切る。
4月10日の記者会見では「局面が大きく変わった」との認識を示した上で、「石川県には極力入っていただかないよう対応しなくてはならない」と発言。「結果として認識が甘かった」と釈明した。同13日には金沢市と歩調を合わせ、県独自の緊急事態宣言を出す。
その3日後の4月16日、国の緊急事態宣言の対象が全都道府県に拡大されると、石川県は東京など13都道府県と一緒に特定警戒都道府県の指定を受ける。特に重点的に感染拡大の防止に向けた取り組みを進める必要がある都道府県の1つとされた。5月14日、ほかの38県と一緒に国の緊急事態宣言が解除されると「今後は感染防止対策と社会経済活動を両立させていく」と確言した。
兵庫県西脇市生まれ。県立西脇高から京大法学部に進み、卒業後の1968年に当時の自治省(現在の総務省)へ。75年に島根県総務部財政課長、86年に茨城県環境局長にそれぞれ就くなど地方自治体の要職を歴任した。
1991年には石川県に出向し、副知事に就任。94年に現職知事が死去すると、知事選に出馬した。擁立したのは、県出身の有力者で当時の新生党幹部・奥田敬和氏(故人)ら。新生、公明、民社、日本新、社会の各党が推薦した。自民党はやはり県出身有力者の森喜朗氏(82)の眼鏡にかなった元農水官僚を推薦したものの、谷本知事が当選した。
2018年の前回知事選では自民党県連、公明党県本部、民進党県連、社民党の推薦を得て7選を果たす。圧勝だった。現職知事では最多の当選回数を誇る。
観光事業の推進に熱心で、2015年にはユーミンこと松任谷由実さん(66)に県観光ブランドプロデューサーを委嘱。また、99年には「いしかわ動物園」をオープンさせ、16年には同園に「トキ里山館」を新設した。
産業振興にも力を入れており、2010年度には企業の新技術開発などを支援する「いしかわ次世代産業創造ファンド事業助成金制度」を創設。その規模は300億円で、地域独自のファンドとしては全国最大規模。
家族は夫人。好きな言葉は「誠実」「衆人皆師」。
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