コロナは56℃のシャワーで殺菌、タバコのタールで肺を保護…中国発コロナデマ集

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遺体が海に浮かんでいる…

 社会不安にデマはつきもの。コロナ禍に絡んで日本では「納豆が効くらしい。納豆の消費量が多い茨城県では感染者が出ていない」、「花崗岩の持つ放射線の効果で、ウイルスが死滅する」などのデマが流れたが、ウイルスの発生源となった中国でも無数のデマが発生。政府当局やメディアが慌てて打ち消すという構図が見られたのだった。

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 たとえば、こんなデマ。

「タバコを吸うとウイルスを殺菌できる。SARS発生時には、死者のほとんどが非喫煙者だったので間違いない。タバコの煙に含まれるタール分子はナノレベルであり、肺の細胞表面を覆うことができる。いわば、肺細胞ひとつひとつにナノレベルのマスクをかぶせるようなものだ。ミクロンレベルの高性能マスクよりも緻密な世界である」

「タバコのタールはウイルスが細胞に付着し侵入するのを阻害し、感染を根本から防ぐことができる。よって、タバコは確実に効果がある。ジョークではなく本当の話だ」

 言うまでもなくタバコは健康に有害であり、新型肺炎の重症化リスクを高めると言われている。3月末に亡くなった志村けんさんも、かつてヘビースモーカーだったことが知られている。

 あるいは、こんなデマ。

「ごま油を鼻の奥に垂らすと感染症を防ぐことができる。毎日家を出る前に綿棒を使って鼻の穴からごま油を垂らせば、あらゆる風邪や感染症を防げる」

 民間療法にはデマがつきものとはいえ、このごま油の話はウィーチャット(LINE同様のチャットアプリ)やSNSなどを通じて広まった。メッセージには同じ内容を記した書籍の画像も添付されており、ぱっと見の信憑性を高めていた。このデマに対し、北京中医薬大学の専門家・羅大倫氏は自身のSNS上で見解を表明する。

「冬に鼻腔が乾燥すると、外部のウイルス等が侵入しやすくなる。鼻腔にゴマ油を垂らすことに湿潤作用はあるが、ウイルスを防ぐというのは完全に言い過ぎ。健康法の一種に過ぎず、効用を過大評価してはいけない」

 このほか「乳酸菌、お酢、生姜、唐辛子などの食品を摂取すると新型肺炎のリスクを低減できる」といったデマや「56℃の温水でシャワーを浴びるとウイルスを退治できる」といった誤情報もあった。お酢や生姜は身体に良さそうだが、56℃の高温シャワーを真に受けたらヤケドするしかない。真っ当な頭ならわかるはずなのだが……。

 中国ではウェブ上に政府当局が設置した「デマ情報センター」があり、無数の情報が「事実」「デマ」などと仕分けされている。

 コロナの治療法に限らず、デマにはざっと以下の通り、様々なパターンがある。

「アメリカはコロナによる死者が大量に発生しており、遺体が海に浮かんでいる状態。太平洋が汚染され、塩の生産量が世界的に低下する」

「中国東北部のハルピン市がロックダウンされるらしい」

「マスクを2~3枚重ねて使うほうがウイルスの侵入を防げる」

「アメリカのチャイナタウンでは、自家用ジェットを使った中国行きのフライトチケットが売りに出されている」

 ニュースサイトでは「今月のデマ情報」といった記事も投稿されているほどだ。

 「液体かぜ薬『双黄連口服液』がコロナに効く」とのデマが広がった際には、薬局やネット通販サイトから一気に商品が消え、かぜ薬で宴会よろしく乾杯する人々まで現れた。液体かぜ薬に人々が殺到した背景について、ニュースサイト「騰訊網」は「何もなす術がない状態よりは、デマでもいいから対策を提示して欲しいという心理が一般庶民にはある」と分析。さらに、こう記述している。

「液体かぜ薬が良いらしいと聞くと、中国人は羊のように群がってしまう。かつて魯迅が描いた世界とまったく変わっていないのだ」、「わざわざ病院に行くより、自宅の液体かぜ薬を飲むほうがいいと考えてしまう。何ということだろう」

 中国にデマが多いのはなぜか。政府やメディアに対する不信感、他人を出し抜かないと生きられないという競争意識の高さ、ウソをつくことへの罪悪感の低さ……といった理由が考えられるだろうか。日本社会はそれよりだいぶマシとはいえ、コロナへの恐怖心、政府やメディアへの不信感は当然ある。中国を嗤ってばかりもいられないのだ。

西谷格
1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞「新潟日報」の記者を経て、フリーランスとして活動。2009~15年まで上海に滞在。著書に『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHPビジネス新書)など。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年5月24日掲載

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