コロナ禍の告白 実はノンケだった『薔薇族』伊藤文学編集長ロングインタビュー

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エイズの防波堤として

――『薔薇族』を刊行した伊藤氏の課題はゲイたちの差別や孤独をなくすことだけではなかった。

『薔薇族』で僕が今でも印象に残っているのは、エイズとの戦いだね。1980年代の初めにアメリカでエイズ患者が見つかって数年たったころ、『薔薇族』でも大々的にエイズの特集をしたんだ。その後、読者の1人で既にエイズと判明した男性から電話があってね。

 僕は話を聞きに、藤田さんと一緒に彼の住んでいた新宿のマンションに行ったんだ。彼の部屋は昔のレコードが棚にずらっと並んでいてね。そのレコードと一緒に、新興宗教のような仏壇があって、お線香が焚かれていた。悩んでいたんだろうね。

 当時はどのマスコミもエイズ患者に接触できていなかったから、彼のインタビューを掲載すれば大スクープだよね。でも、そんなことよりも、感染の実態を伝えて啓発することが、『薔薇族』の大切な役割だと考えて、掲載を決意したんだ。彼も悩んでいたから、そっとしておいてあげた方がいいんだろうなと、相当悩んだけれどね。

 エイズの前から、梅毒とか性病の悩みとか、「おしりの穴にゴルフボールを入れたらとれなくなった」とか、読者から相談を受けることは多かったんだよね。だから、『薔薇族』では、編集室からという1番最後のページで、理解のあるお医者さんを紹介していたんだ。

 そういうお医者さんの1人に銀座の開業医さんがいてね。その先生が某大学病院の教授の協力を得て、『薔薇族』の読者100人を選んで、エイズの検査をしてくれることになった。結局、数人が感染していたんだけど、それをその大学病院の教授は、僕にも銀座のお医者さんにも知らせず、勝手に大手の新聞紙面で公表しちゃったんだ。

 あれには頭に来たね。逆に帝京大学付属病院には良いお医者さんがいて、窓口を作って検査してくれたんだよ。『薔薇族』でそこに行くようにって紹介したから、日本中から読者が集まって来た。新しい治療薬が開発されたなんてことも教えてくれて、記事に書くこともできたしね。ただ、その先生が良い男だったもんで、感染してないのに何度も通った人もいたらしい。先生も困っただろうな。そんな弊害はあったけど(笑)、『薔薇族』は間違いなくエイズの防波堤の役割を果たせたと自負している。

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