『戦争は女の顔をしていない』に触発…コロナ禍の“女性兵”戦争映画ベスト3

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長い金髪をバッサリ

「バタリオン ロシア婦人決死隊VSドイツ軍」
(2015年 監督ドミトリー・メスキエフ)

 昨年「彼らは生きていた」や「1917 命をかけた伝令」など第一次世界大戦の最前線を描いた映画が続けざまに公開されたが、本作も第一次大戦を舞台にし、しかも女性兵士だけの小隊がドイツ兵と激しい銃撃戦を交える珍しい映画だ。

 フィクションのような設定だが事実にもとづき、主役はマリア・ボチカリョーワという実在した帝政ロシア軍の女性将校である。日本の女優でいえば藤山直美か渡辺えりといった雰囲気の女性で、映画は彼女による「婦人決死隊(Women's Battalion of Death)」の結成と部隊の戦闘を描いている。

 前半は女性たちの隊への志願とハードな軍事訓練が描かれる。資産家の令嬢までが軍に入隊志願し、長い金髪をハサミでバッサリ切り落とすシーンは衝撃的で、部隊の女性兵たちはみな坊主頭だ。彼女たちは厭戦気分の高まった男性兵士たちを刺激するために結成され、最前線へと送られ、激戦に身を投じる。

 中盤でロシア革命が起こりボチカリョーワの運命は激動するのだが、彼女はそれでも女性部隊を率いて戦い続ける。女性兵たちの戦意は高く、戦死者が続出する中でも女性将校は情に流されることなく指揮をとり、戦果をあげる。

 戦後、彼女は革命政府によって国外追放されるのだが、ソ連が解体された90年代に名誉回復された。そうした経緯があっての、英雄的な扱いの映画化だ。けっして欧米では企画されない種類の物語であり、戦争映画好きは見ておいてけっして損はない。

 プーチン政権下、対外強硬路線をとるロシアでは戦死は名誉の象徴だ。だからロシア映画では戦死した女性兵は英雄化され、日本映画の「ひめゆりの塔」のように悲劇の象徴として描かれるわけではない。そこには日本人とは別の戦争観があり、前出の映画を見ることで、我々はコミック『戦争は女の顔をしていない』と別の視点を得ることができる。

 ちなみに世界を見渡せば、現在でも女性兵を「男女平等」の象徴としてとらえる国があり、イスラエル、ノルウェー、スウェーデン、北朝鮮などは女性も徴兵の対象になっている。

 今、日本の医療現場で戦っている女性たちも、いつか映画に描かれるかもしれない。従軍もコロナの医療行為も命がけの仕事である点に違いはない。ここで紹介した映画を見ながら、今、医療に携わっている彼女たちにエールを送ってほしい。そして早くこのコロナ禍が終息することを祈ろう。

藤木TDC
1962年生まれ。ライター。映画、酒場ルポ、庶民史等のテーマを中心に雑誌・書籍に執筆。著書に『消えゆく横丁』(ちくま文庫)『東京戦後地図 ヤミ市跡を歩く』(実業之日本社)『アウトロー女優の挽歌 スケバン映画とその時代』(洋泉社)ほか多数。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年5月22日掲載

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