「コロナ不況から立ち直るには3~5年必要」 三浦瑠麗の考えるアフター・コロナ

国内 社会

  • ブックマーク

瑠麗さんに訊け――第2回(全5回)

 素朴な疑問や人生の悩みを国際政治学者の三浦瑠麗さんにぶつけてみる本企画(瑠麗さんに訊け)、第2回目の今回は、「新型コロナウイルス」に関連した疑問や不安である。早い段階から経済への影響を懸念し、危機感を露わにしていた瑠麗さんは、これから先をどう考えているのか。返ってきたのはかなり深刻な見通しだった。

 ***

日本や世界が立ち直れるのはいつ頃、どのような形?

Q:このコロナ不況から日本や世界が立ち直れるのはいつ頃、どのような形だと見ていますか。
(60代・男性・団体職員)

A:これは非常に長い時間がかかるでしょうね……。

 医療崩壊への懸念もあって、各国政府は意図的に感染を遅らせる手段を取っています。これは結果としては集団的な免疫を獲得する機会を遅らせているわけです。そうなると経済は人為的にシャットダウンさせられている期間が長くなりますし、一時的な自粛緩和期においても、免疫獲得が行き渡らぬ間は第2波、第3波がやってきます。当然、経済はスローにしか立ち上がりません。そんな状況では、新しい事業を始めようとか、新しい設備投資をしようとはならないでしょう。

 日本のことを考えれば、需要が一定期間失われるというだけでなく、成長の可能性そのものが失われるメカニズムに目を向けるべきでしょう。展望のある分野で、自分でリスクを背負ってお金を借りて先行投資をし、事業を拡大した経営者が直撃されます。そんな会社や経営者が一気に潰される。

 もちろん、例えばレストランなどであれば1年や2年廃業してコロナをやり過ごし、コロナ後に改めてスタートしようと考えるのはありうるでしょう。しかし、初期投資にはお金がかかる。ここで問題なのは、銀行がどれだけの体力を持っているかです。倒産が相次げば、銀行自体が傷んでくるからです。政府は政府で経済対策によって減少してしまった需要を引き受けようとはするでしょうが、限界はあります。それでもカバーしきれぬ倒産によって銀行の体力がなくなれば、新しい事業に融資が回らなくなります。当然、経済は回復しない。バブル崩壊後の「失われた20年」をやっと乗り越えた日本に、「コロナ不況」が降りかかってくるのです。

 ことは、日本だけではなく、世界全体で起こっています。日本だけが回復するというシナリオは望み薄でしょう。少なくとも3年から5年は非常につらい時期が待っていると考えるべきではないでしょうか。

 こうして訪れる不況が、社会不安につながらぬことを祈るばかりです。

子供といると時々どうしようもなくうんざりします

Q:仕事をしながら子育てもしています。子供は小学校に上がりました。やっと小学校!とうれしかったですが、このコロナの流行で入学式だけはやりましたけど、いまはほとんど家にいます。私も在宅勤務に切り替えなくてはならず、仕事もこなさなければならないのですが、睡眠不足も重なって、家に子供といると時々どうしようもなくうんざりします。瑠麗さんだったら1週間誰もいない家にこもり、しかも子育ても家事も仕事もしなくていいとしたら何をしますか。私は何も考えずにぼーっとしていたいですが。
(40代・女性・管理職)

A:あなたはまず子供さんと離れる時間を作った方がいいです。危険信号が出ています。休校中は月に26万4千円の助成金も出ていますから、ベビーシッターさんを雇うのがいいと思います。管理職であっても助成金は出ますから、会社の福利厚生を担当する部署に今すぐ電話をしてみてください。

 人間というのは、限界を超えて睡眠不足なときに、他者に優しくできる動物ではありません。出産直後こそ、ホルモンの働きでバカ力が出るように設計されていますけれど、その時期を越えて、なお自己犠牲を前提にするのは生物として無理があります。

 家にこもりきりで、子供にうんざりするのは仕方がないことです。なので、目先を変えましょう。シッターさんに託して外を散歩するのもそう。大人も子供も気分転換が必要です。

 1週間誰もいない家にいたら……? 私だったら家にいないですね。飲み歩きに出てしまうでしょう(笑)。でも、コロナの時期ですものね……三食つくる義務から解放されて、食事を抜いてファスティングをしますかね。一杯のおかゆがじっくりと味わえるような、感受性の高い状態に自分を回復させることに使いましょうか。あるいはきちんと食事をとりつつ体幹トレーニングもいいですね。いずれにせよ、体と心のバランス調整に使うんじゃないでしょうか。

 このコロナの時期は皆さん、頭はすごく回るけれど体が追いついていない状態なんじゃないかと思います。家事も育児も仕事でも、あれもこれもやらなければならないことがあるんだけれど、どうも効率が悪い、はかどらないという。

 そこを追い込んでしまうと、うつになってしまうので、意識的にバランスを取る努力も大事なんだと思います。

子供を海外に留学や移住させたほうがよい?

Q:日本は今後、右肩下がりになっていくのが目に見えています。子供をそんな日本の教育システムのなかで育ててよいものでしょうか。海外に留学や移住させるなりして、世界で活躍できる人材になってもらうほうがよいのではないかと悩んでいます。
(40代・女性・商社)

A:「日本」の教育の何が気になるのか、自問すれば、それが自ずと答えになるでしょう。足りないものが海外で得られるなら、どんどん海外に出ればいい。もちろん、子供の人生は子供の人生なので、最終的には彼ら自身の選択ですが、選ぶ機会を与えることにはなりますね。

 むしろ大事なのは、あなたもお子さんも、自分が「仕事に何を求めるのか?」を早期に見極めることだと思います。お金なのか? 社会的地位なのか? 裁量の大きさなのか? 一緒に働くチームの人柄なのか? オフィスの快適性なのか? そこを見極めずに「日本」といっても、海外だって日本だってさまざまだと思うのです。

 裁量でいえば、日本を動かすような仕事ではないけれど、自分の裁量は大きい仕事を選ぶ人もいるでしょう。あるいは官僚のように、自分ひとりの裁量は小さいけれど、日本を動かす実感を持てる仕事を好む人もいるかもしれない。

 グローバルか否かという点でいうと、わが家は夫の母方の実家はアメリカですし、彼の仕事もグローバルな方です。でも、私たちは海外にずっと住みたいとはあまり思っていません。二人とも、一番好きな街はロンドンですけれど、ではそこに住みたいかというとそうでもない。異邦人であることの肩身の狭さなんかをよくよく考えてみると、やっぱり旅行者である方がいい。

 そもそも、どこに住んだとしても自分が知ることができるのは自分が暮らす、ごくごく狭い範囲でしかないんですよね。日本もそう。そこで快適だったとしても、それはたまたまそこが自分に合った場だったから快適だということに過ぎないんじゃないか。多様性を拡げるのであれば、日本で横へ横へとつながりを拡げていくことでも得られますし、しょっちゅう旅行したり、海外の事象に触れる機会を多くすることでも得られます。

 ただ、仰るように「お金」という面を重視するなら、キャリアはグローバルに考えた方がいいかもしれないですね。

 ***

三浦瑠麗・著『私の考え』
「人生は一回限り。人間、迷ったら本音を言うしかない」――常に冷静に、建設的な議論を求めるスタンスで言論活動を続けてきた著者が、思うままに本音を語る。「“リベラル”にも女性憎悪は潜んでいる」「『性暴力疑惑』を報じる価値」「政治家が浮気してもいい」「怖がっているだけでは戦争はわからない」「恋は本当に美しいものだから」etc.政治について、孤独について、人生について、誠実に書きとめた思索の軌跡。

 ***

三浦瑠麗(みうら・るり)
1980(昭和55)年神奈川県生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。国際政治学者として各メディアで活躍する。株式会社山猫総合研究所代表。『シビリアンの戦争』『21世紀の戦争と平和』『孤独の意味も、女であることの味わいも』など、著書多数

デイリー新潮編集部

2020年5月19日掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。