「岡江久美子さん」コロナ肺炎で死去後 乳がん治療の現場で起こっていること

国内 社会

  • ブックマーク

小林麻央さんの悲劇

 そういった現場の声を聞くにつけ、思い出されるのは、小林麻央さん(享年34)の悲劇だ。当初、人間ドックで左乳房にしこりが見つかって「精査すべし」の判断が下り、病院を受診したところ腫瘍が確認された。良性か悪性かの判断がつきかねたので3カ月後の再受診を言い渡されたが、多忙のためかそれが8カ月後になった。

 その際にがんが見つかり、脇のリンパ節への転移がわかった。進行は速かったものの、この段階で治療に取り掛かれば5年生存率は90%超。当然、標準治療を医師は勧めたのだが、麻央さん側は首を縦に振らなかったという。

 標準治療とは、がんのタイプとステージを見て、手術と放射線、抗がん剤にホルモン療法、そして分子標的治療薬を組み合わせて治療していくもの。それを麻央さんが避けた理由は判然としなかったのだが、その後、麻央さんは標準治療ではなく民間療法、とりわけ「気功」に頼っていたことが明らかになった。

 ウェブで検索すると、「気功でがんが小さくなりました」などと掲げるページが少なくない。切らずに治したい、カラダに優しいがん治療を受けたいと患者が考えるのは不思議なことではない。問題なのは、“治りたい”と言って患者が病と闘っているのに、重要な意思決定を惑わしたり、足を引っ張ったりするエセ医学の影響だ。標準治療から遠ざかればそれだけ、エセ医学が介入する余地が増えてくる。

 麻央さんの場合は、民間療法に近づく中でがんは進行。最終的にはステージ4となってしまう。慶応病院で何度か手術を受けたのは、QOL(生活の質)向上のためのものだった。

 ひるがえって岡江さんの乳がんは、ステージで言えば「0」に相当するレベルだったという。先の日本放射線腫瘍学会の声明の中には、こうある。

《一般的には、初期の乳がんの手術後の放射線治療で免疫力が大きく下がることはまずありません。免疫を担う白血球などは、骨髄で作られますが、乳がんの放射線治療で照射される骨髄はわずかであり免疫力の低下は考えにくいからです》

週刊新潮WEB取材班

2020年5月17日掲載

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。