コロナ禍で高まる「米中軍事衝突」のリスク カギとなる2つの国名は?
米中が激突する舞台は…
英国人政治家ノーマン・エンジェルが1910年に『大いなる幻影』を上梓し、「20世紀初頭の欧州では英国経済とドイツ経済の一体化が進み、戦争の遂行は『大いなる幻影』となった」と主張したが、4年後に勃発した第1次世界大戦でその指摘は全くの誤りであったことが明らかになった。
米中関係に話を戻すと、米国の国際政治学者グレアム・アリソン氏が2013年6月、「ツキディデスの罠」と称して、「新興国の台頭が覇権国を脅かして生ずる構造的なストレスから米国と中国が衝突する」と主張したことが思い起こされる。
ツキディデスとは、古代ギリシャで覇権を握っていたスパルタが、急激に勢力を伸ばしてきたアテネを抑え込むために起こしたペロポネソス戦争を「戦史」としてまとめた歴史家ツキディデスのことである。古代ギリシャでも疫病(天然痘や麻疹の可能性)が蔓延しており、アテネの指導者ペリクレスが疫病に倒れたことが勝敗の分かれ目になったと言われている。
米国内でも「コロナ後には世界の秩序が大きく変化し、中国の覇権が鮮明になる」と主張する論調が出てきており(5月7日付日本経済新聞)、これに危機感を抱いた米国政府が自らの覇権を固守するためなら短期的な経済的利益を犠牲にしてでも、「中国潰し」を断行する可能性が高まっているのではないだろうか。
筆者は軍事専門家ではないが、米中が激突する舞台は「南シナ海から台湾にかけての海域」か「朝鮮半島」ではないかと懸念している。
南シナ海については、新型コロナウイルスの混乱に乗じて軍事要塞化の動きを加速しており、米軍はこれを牽制するため「航行の自由作戦(度を超した海洋権益を主張していると判断した国の海域を対象に米軍の艦船等を派遣する作戦)」を展開している。さらに米軍は中国側の神経を逆なでするかのように台湾との軍事面の連携を強化しており、一触触発の状態にあると言っても過言ではない。
朝鮮半島についても、金正恩の健康問題が深刻化すれば、事態は一気に流動化する可能性が高い。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は4月27日、2019年の世界の軍事費を明らかにしたが、トップ3に初めてアジアの2カ国がランクインした。中国(2610億ドル)とインド(711億ドル)である。21世紀に入りアジアでは、中国の軍拡の動きに煽られる形で周辺国も一斉に軍拡に舵を切っている。
第1次世界大戦はスペイン・インフルエンザで幕を閉じたが、米中間の軍事衝突は新型コロナウイルスのせいで幕を開けてしまうのだろうか。
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