コロナ禍でうまれたリモート演劇 「劇団ノーミーツ」の作品の出来ばえは?

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 新型コロナウイルスによる「緊急事態宣言」以降、各地で劇場の営業停止なども相次ぎ、演劇や映画へのダメージは計り知れないほどの状況になっている。

 その「緊急事態宣言」が発出された4月7日に始動した劇団が「劇団ノーミーツ」だ。劇団名の「ノーミーツ」とは「no meets」(=人と会わない)ことであり、「NO密」(=3密を避ける)という意味が込められている。

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「ノーミーツ」の役者やスタッフたちは、一切、顔をあわせることなく企画し稽古し作品を作る。作品の制作には主に「ZOOM」というリモート会議用アプリケーションが使われ、「公演」が終わるとYouTubeにアップされていく。

 状況を悲観するばかりではなく、限定されたこの「リモートという場」にこだわって演劇をやってみる。

 これが彼らの基本的発想だ。こうした発想は他の幾つかの劇団にもあるものの、「ノーミーツ」はここ約一か月で短編から長編作品に至るまで10本以上配信していて、これだけの配信ペースでこの発想を展開する劇団は、今のところ彼らしかいない。

 公式webにある冒頭の文言からも、彼らのその強い「志」と「こだわり」が見て取れる。

『エンターテインメントが、失われてしまった。

 私達が日々生きがいにしていた、舞台や、映画や、イベントが、突如無くなってしまった。喪失感は計り知れない。

 もちろん、今一番大切なことは、まず生きることだ。

 そのために、自粛を続けながら、今できることを全員で考え模索する必要がある。

 だから劇団ノーミーツは、自宅から作品を届けていく。

 一度も会ったことがない役者やスタッフ達と、一度も会わずに企画し、稽古し、本番を迎える。

 no meetsを守りながら、NO密で濃密なひとときを。』

 状況に屈することなくそれを逆手に取ろうとする、その“志”は素晴らしいし立派だと思う。「では、彼らの作品の中身はどんなものなのだろう?」

 そう思い、彼らがYouTube上にアップしたものを長編・短編問わず全て観てみた。

「ノーミーツ」の短編は140秒を基準としたものが多い。これは推測だが、おそらくTwitterの文字量140wを意識したものだろう。この短編は軒並み楽しめるものが多かった。

 私が特に面白いと思ったものは、「ダルい上司の打ち合わせ回避する方法考えた。」「ZOOM合コン、事故ったwww」の短篇二つだった。

 この2作品はZOOMでリモートコミュニケーションをしている設定がまるごと生かされた作品となっていて、結構面白かった。

 役者もなかなか個性的で今後が楽しみな人物も何人かお見受けしたが、今後が楽しみだからこそあえて苦言を呈させてもらえば、15分~20分以上となる彼らの「長編」は厳しかった。同劇団の作家であり演出家の小御門氏は「ある程度のプロットを決め、それ以外は役者の即興に委ねる」と動画で語っていたが、観ている側からするとこれは厳しい。役者のアドリブがまだまだ弱いからだ。

 動画コメント欄には「即興がおもしろい」とか「エチュードがすごかった」などというコメントも散見されたが、申し訳ないがそういうコメントを信じてはいけない。おそらく、そういう視聴者の多くは若い層で、役者の本当のアドリブの凄さを経験したことが少ない方たちなのだと想像した。

 昔の話で恐縮だが、例えば鴻上尚史氏がかつて主宰していた「第三舞台」の役者さんたちがやっていたアドリブを、「ノーミーツ」やそのファンの方にもYouTubeか何かで観て欲しい。「そんな古い話を持ち出されても……」と言うのであれば、例えば俳優の佐藤二郎さんが出ている最近のYouTube動画でもいい。

 いずれにせよ、役者間のアドリブとは元来“激しいバトル”なのだということを実感してもらえると思う。

 リモートメディアを軸にして芝居を作るという志は、間違いなく素晴らしいと思う。「劇団ノーミーツ」の実際の作品にも、多々面白いものがあったし、この機にと「ノーミーツ」以外の他の劇団の「リモート演劇」もいろいろ観てみた。

 しかし、そこで感じたことは、「このジャンルの演劇の楽しみ方とは、現段階では“一般人の会話を覗き見する楽しみ”の延長線上にあるものであって、そこを大きく上回る部分というのはまだ存在しないのかもしれない」ということだった。

 言葉を換えれば、この演劇ジャンルは、まだ「プロフェッショナルなエンターテインメントを感じることができない」発展途上のジャンルだということでもある。

 もちろん、このジャンルはまだ生まれて1か月の歴史しか持っていない。これからいくらでも進化していくのだろうと思う。

 一方、“キャストスタッフが一度も会わずに”完全リモート”で制作!”という「劇団ノーミーツ」と全く同様のコンセプトで作られた映画が、5月1日YouTubeで公開された「カメラを止めるな!リモート大作戦!」である。

 前回、大好評を博した「カメ止め」スタッフが集まって、約1か月で作ってしまったのだという。

 ネタバレは悪いのでストーリーなどここでは書かないが、この作品には彼らの“超B級”テイストのプロフェッショナリズムがしっかり入っていて、“笑って泣ける”約28分のエンターテインメントだった。今“元気が出る作品”として、確実におススメできる。このジャンルにおける彼らの作品も、これからいろいろ観ていきたいと思った。

「劇団ノーミーツ」はこの5月23日、24日に「旗揚げ公演」として、初めてのリモート演劇「長編生配信」に挑戦する。

 その昔、寺山修司は「ノック」という街頭劇で“街自体”を、唐十郎や佐藤信は“テント空間”を新たな劇的空間として作り変えることで、伝説を作った。

 2020年、この閉塞状況の中で「劇団ノーミーツ」はリモート空間をどのようにして新しい劇場へと作り変えていくのだろうか。

 多少手厳しいことも書きはしたが、それは彼らの潜在力に大いに期待しているからに他ならない。彼らは今、明らかに突っ走っているし、面白いことに一歩足を踏み出していることも間違いない。

 これからも、彼らの活動に注目していきたい。

尾崎尚之(@YuuyakeBangohan)/編集者

週刊新潮WEB取材班編集

2020年5月9日掲載

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