山田ルイ53世 一発屋?スギちゃんの「ワイルドが生まれるまで」に迫る
テツandトモ、ムーディ勝山、波田陽区、キンタロー。など、「一発屋」として名をはせた芸人たちの悲哀と笑いに溢れた半生を描き、雑誌連載が「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞し話題となった、山田ルイ53世の「一発屋芸人列伝」。今回は先日トーク番組でも共演した「スギちゃん」に迫った。
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スギちゃん ワイルドに遅れてきた男――「一発屋芸人列伝」特別書き下ろし
「……ということで、ファイナルステージ進出で――す!!」
番組MC、雨上がり決死隊・蛍原から勝ち名乗りを受け、
「やったぜぇー! うれしいぜぇーー!!」
と喜びを爆発させる一人の男。
おでこに一筋垂らした前髪以外は整髪料でベットリと撫で付け、袖なしのGジャンにデニムの短パンと“ワイルドな”出で立ち……ご存知、お笑い芸人スギちゃんである。
見れば、小学生の男の子のように二の腕全部を使って目元をゴシゴシと。
そう、彼は今泣いていた。
2012年3月20日。
その日、関西テレビ・フジテレビ系列全国ネットで生中継されていたのは、「R-1ぐらんぷり2012」の決勝大会である。
一人芸で誰が一番面白いのかを「プロ・アマ・芸歴一切問わず」で決めようというこのコンクール。
優勝者には賞金500万円と副賞が贈られるが、エントリー総数3612名が何より手にしたいのはやはりピン芸人日本一の称号だろう。
言うまでもなく、売れっ子への道が開けるからに他ならない。
芸人たちの熱い想いはスタジオの観客にも十分伝わっているようで、スギちゃんの感極まった姿に自然と拍手が湧き起こった。
こうして2012年の「R-1」は、第10回の記念大会に相応しく、感動の内に幕を閉じ……いや、閉じない。
同じくMC、雨上がり決死隊・宮迫が、
「スギちゃん! 涙目、早(はえ)ーぜぇー!?」
と“ワイルド口調”でツッコむと、会場は一転爆笑に包まれる。
仰る通り……確かに泣くのは早かった。
この年の決勝大会は、12名のファイナリストが3ブロックに分かれて戦うトーナメント方式。勝ち上がった3名が再度ネタを披露し、ようやく優勝者が決まるという段取りである。
つまり、まだ予選を終えただけ。
スギちゃんの涙が醸し出した圧倒的“エンディング感”のお陰で、
「ファイナルステージ進出!」
という冒頭の台詞を危うくスルーしかけたが、肝心の決勝はこれからだった。
にもかかわらず、当の本人はといえば、
「だって、苦労したんだぜぇ~……」
と己の人生を一から振り返り始めそうな勢い。
もしこのタイミングでテレビを点けた人がいれば、
「おー、今年の優勝はワイルドか!」
と勘違いしただろう。
そして、極めつけは、最終決戦を制したCOWCOW多田が、
「……応援してくれたお客さん、スタッフさん、で、まー……相方に、本当に感謝したいと思います!」
とお笑いとしての矜持からか、涙を堪えてコメントを絞り出しているすぐ横で、またスギちゃんが号泣したこと。
その光景に、筆者は自宅のTVの前で思わず“ヒヤッ”とした。
というのも、お笑いの賞レースで「チャンピオンより泣く人」など見たことがなかったからである。
芸人たるもの、などと大層に持ち出さなくとも、主役の多田を差し置いて涙するというのは、文字通り“水を差す”行為。
披露宴で新婦より派手なドレスを身に纏う……だけでは飽き足らず、
「イエ――――イ!!」
と雄叫び一閃ウェディングケーキを真っ二つにするような暴挙、もはや禁忌(タブー)に近かった。
順当に考えれば「悔し涙」だろう。
実際、決勝では審査員7名の票が、多田、スギちゃんに3票ずつと割れ、ただ一人チュートリアル徳井を推した木村祐一による再投票の結果、惜しくも準優勝という流れもあった。
いやくどいが、それとて御法度は御法度。
何であれ、2位が1位のコメント中、周囲の注目を奪っては、
「空気を読まないと!」
「あそこで目立つのは違うでしょ?」
などと芸人仲間やスタッフにチクリと言われても仕方がない。
ところがそんな筆者の懸念は、MC陣にマイクを向けられたスギちゃんの一言で、
(これは……スギさん売れたなー!)
と払拭、いや、真逆の感想へと覆ることになる。
「多田さんの涙で泣いちゃったぜぇ~」
禁忌を迂回する唯一の涙腺のルートは、まさかの“貰い泣き”であった。
いや、実にキュート。
日本一を決める年に1度の大舞台でこれほどネタ以外の部分、人柄を披露し得た芸人が未だかつていただろうか。
あれから6年後の2018年8月のtwitter投稿で、奇しくもチャンピオン多田自身が、
「第100回全国高校野球 優勝した大阪桐蔭より 準優勝した金足農業が話題になってる事で 2012年R-1ぐらんぷり 優勝した俺より 準優勝したスギちゃんが話題になった事を思い出す夏の夕暮れ(原文ママ)」
と回想している通り、その無防備で愛すべきキャラクターはお茶の間や業界関係者の心を鷲掴みにし、この「R-1」を機にスギちゃんは大ブレイクを果たすことになる。
日本の芸能史上、「もらい泣き」がこれほどヒットした事例は一青窈以来。
一体何故、「準優勝なのに号泣」という高いハードルを飛び越え彼は泣いたのか、いや、泣くことができたのだろうか。
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