寺畠正道(JT社長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】
ストレス社会のなかで
佐藤 日本の飲食店では、この4月から原則として店内禁煙になりました。私はたばこを吸いませんが、日本の受動喫煙の議論はちょっと行きすぎじゃないですか。
寺畠 改正健康増進法が施行され、たばこを吸える場所が少しずつ減っていきます。加熱式たばこであれば吸える場所が残る可能性もあります。そこは飲食店のオーナーにしっかり説明したり、テラス席の増設の提案なども行って、吸える場所を増やしていきたい。
佐藤 昨年、九州のある国立大学がたばこを吸う人を採用しないと発表しました。学内だけでなく、自宅での喫煙も認めないという話です。研究業績もあり学生の指導にも熱心な優れた研究者を、大学ではたばこは吸わない、しかし自宅では喫煙しているから採用しないのは、本人への深刻な人権侵害だと思いますし、教育を受ける学生においても、教育を受ける権利が奪われる点で人権侵害が起きている。これらについて、教育界もメディアもあまりに鈍感ですよ。
寺畠 国や行政が個人のプライバシーや嗜好の領域に入り込むレベルが、たばこに関してはやや強い印象も受けますね。
佐藤 ダイバーシティ、多様性だと言っておきながら、なぜか嗜好品の多様性は認めない。
寺畠 多様性を担保するための寛容性が、日本社会から薄れてきているんじゃないでしょうか。スイスから戻ってきて、日本は同質化して異なるものを排除しようとする傾向が非常に強いと感じました。昔はもっと寛容だったと記憶しています。
佐藤 ヨーロッパでもロシアでも、屋内は禁煙でも、ちょっと外に出て吸うことはできます。でも日本は外でも喫煙できなくなっている。
寺畠 まさにご指摘の通りです。
佐藤 屋外での喫煙は、最初は受動喫煙ではなくて、歩きたばこをしていると子どもに当たるとか、ポイ捨てによる町内美化の問題でした。
寺畠 そうですね。
佐藤 それがいつの間にか受動喫煙の問題になった。屋内ならまだしも、大量に空気があるなかで、受動喫煙というのは説得力に欠けます。
寺畠 受動喫煙の問題は、基本的に屋外ではなく屋内であるとの理解です。
佐藤 自由権の基本は、愚かなことを行う愚行権を含みます。唯一の例外は、他者への危害排除の原則です。その行為が危険でないかぎりは、お互いが不愉快というくらいなら容認するのが、この市民社会のルールだと思います。
寺畠 現代社会はストレスの多い社会です。そのなかで私たちはたばこを吸われる方と吸われない方が共存できる社会を作っていきたい。そのためには周囲に迷惑をかけずにたばこを吸える環境を整えていく必要があります。行政に働きかけて喫煙所を作る取り組みもそうですし、加熱式たばこなどRRPを積極的に開発していくこともその一つです。ストレスのかかる社会で何ができるか、今後もそれを真剣に考えていきたいと思っています。
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