寺畠正道(JT社長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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新興国のたばこ需要

佐藤 では従来の紙巻きたばこの方は、いかがですか。日本では人口が減る一方だし、喫煙人口も少なくなっている。2018年のデータでは喫煙率17・9%、1880万人がたばこを吸う人で、10年前と比べても800万人くらい減っています。

寺畠 紙巻きたばこの戦略には二つの方向性があります。まず、日本やヨーロッパなどの成熟マーケットでは、全体のボリュームが大きくなることはない。そうすると競合相手からいかにシェアを奪い取っていくかが重要になります。しかも各国で規制がどんどん強化されるなかでの競争になります。ただ私たちはぜんぜん諦めていません。そこは知恵の使いようなんですね。

佐藤 勝算があるのですね。

寺畠 実は規制が厳しくなったマーケットほど、JTのシェアは向上しています。イギリスやカナダ、フランスなどの主要な市場では、プレーン・パッケージ規制といって、製品・ブランド名を文字で表示する以外は同じ色や形状のパッケージで売らなければなりません。そういう厳しい規制がある国ほどシェアが伸びている。

佐藤 箱の見栄えが一緒なのですね。

寺畠 ええ。イギリスでのシェアは43~44%で、ナンバーワンです。やはりここでもポイントは、社員のモチベーションを向上させ、いかに環境に適応して戦っていくかということに尽きると思います。

佐藤 アフリカなど、新興国はどうですか。

寺畠 もう一つの戦略の方向性は、やはり新興国です。

佐藤 私はアフリカの産業化プロセスに注目しているんです。これからどんどん産業化社会になっていくと、伝統的にアフリカで人気がある水たばこの習慣がだんだん廃れていくと思います。楽しむのに時間がかかりすぎるので、産業化社会と相性が悪い。

寺畠 吸うのに1時間かかりますからね。私もアフリカには大変注目しています。昨年もエチオピアやモロッコに行きましたが、新興国にはこの3、4年間、かなり投資しています。経済が成長してそれぞれのGDPが上がってくるにつれ、おっしゃるように、短い時間のなかで自分の楽しみを得たいと思うようになる。水たばこからの移行もそうですが、たばこを楽しむためにもっとお金をかけてもいいと思うようにもなります。

佐藤 さらには人口も爆発的に増えてくる。

寺畠 新興国は今後も人口はどんどん増えます。マーケットとしても将来を展望したら、それこそアフリカの時代が来る。

佐藤 もう現地でかなり販売体制ができているのですか。

寺畠 タンザニアでは90%、スーダンでも70%以上のシェアがあります。

佐藤 どちらも非常に可能性のある国ですね。

寺畠 一定の規模の人口があって、平均年齢が20歳台と若いんですよ。

佐藤 たばこの葉もアフリカから購入しているのですか。

寺畠 調達しています。マラウイやタンザニアなどですね。主に中央地帯で買っています。

佐藤 JTのような大きな企業が現地で買うというのは、フェアトレードの観点からも非常に重要ですね。たばこの需要が伸びていくなかで、意識の低い会社が参入すると人道的な問題が起きることがあります。

寺畠 アフリカでは、チャイルドレイバー(児童労働)の問題がある。これを解決するのにJT独自のプログラムがいろいろあるのですが、最終的には直接購買するのが一番いい。私どもが直接農家と契約して、いろいろなサポートをしながら、フェアな金額で継続的に買い続ける。そうするとウィン・ウィンの関係が農家との間にできて、サステイナブルに調達できることになります。

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