寺畠正道(JT社長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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「加熱式」による変革

佐藤 こうした大きな組織改革は、たばこ業界で起きている大きな変革とも関係していますね。

寺畠 ええ、つながっています。加熱式たばこを筆頭とするRRP(健康リスクを低減させる可能性のある製品)が出てきて、紙巻きたばこと並ぶ2本目の柱にしようとしているところです。

佐藤 紙巻きたばこの成功体験があったので、加熱式たばこは海外勢に後れをとったとうかがいました。

寺畠 そうですね。2014年にフィリップ モリス インターナショナルが「アイコス」を発売しました。私どもが「プルーム・テック」を売り出したのは16年です。当初、加熱式たばこがここまでヒットするとは思いませんでした。

佐藤 国内のたばこ市場における加熱式たばこのシェアはどのくらいですか。

寺畠 23%まで伸びてきました。RRPはたばこ事業における新規事業という位置づけです。もう1700億~1800億円程度は投資しています。

佐藤 紙巻きたばこは農業製品で、加熱式たばこは工業製品です。オペレーションがぜんぜん違うのではないですか。

寺畠 そうです。投資するにしても、機械設備だけでなく、いろんな特許を取ったり、電機業界からバッテリーやシステムの技術者にきていただいたり、さまざまなことに取り組みました。また製品としても、日本であれば、低ニコチン、低タールの軽いたばこが好まれるので、軽い吸い心地でにおいがほとんど出ない低温加熱型の「プルーム・テック」「プルーム・テック・プラス」に力を入れていますし、ヨーロッパなら、吸いごたえのある高温加熱型の「プルーム・エス」に注力する。開発も含めてまだまだ投資フェーズ(局面)で、結果が出るまでにあと2、3年はかかるんじゃないかと思います。

佐藤 売り方も変わってきますね。

寺畠 紙巻きたばこの営業パターンでは立ち行かないですね。どうして紙巻きたばこではなく加熱式がいいのか、加熱式のなかでも、どうして低温加熱型がいいのか、などをきちんと説明できないといけない。

佐藤 そういう営業をやったことがない。

寺畠 私どものたばこ営業は、すでに取引関係のある顧客を訪問して販売していくルートセールスで、たばこ屋さんの店主の方やコンビニの経営者の方々を訪問するのが仕事でした。でも加熱式は、そこに陳列してもらうだけでは売れない。

佐藤 そうでしょうね。売るための工夫が必要になってくる。

寺畠 会社や飲食店に行って、紙巻きたばことの違いや吸い方、長所などのアピールをしてみたり、休日のショッピングモールにブースを作って、たばこを吸われる方だけでなくそのパートナーや家族に、健康リスクを低減させる可能性があることだけでなく、ほとんどにおわないという特長を説明してみたり、さまざまな現場でまったく違うアプローチをしなくてはならない。

佐藤 そうなると現場ごとにやり方が変わってくる。

寺畠 だから現場サイドで考えて動ける体制を整えました。つまり権限を委譲した。そして「もっと自分たちでやっていい」「ちょっと問題が起きたって会社は潰れないから大胆にやりなさい」と繰り返し話してきました。

佐藤 それは大きな変化ですね。

寺畠 いままで指示されたことにしっかり取り組む傾向のある組織だったのが、自分たちで主体的に考えなさい、と指示されるわけですから、1、2年は混乱していたと思います。でも将来のためには、自分たちで考えて行動できるよう変化することは非常に重要で、それはその人が人材としてのマーケットバリューを向上させることにもつながります。

佐藤 でもロールモデルがない。

寺畠 それで評価体系も変えました。もちろん売り上げも評価対象ではありますが、いろんな提案を出しチャレンジして成功した人を一番に評価する。そしてチャレンジして失敗した人も評価する。一方、何もチャレンジしなかった人には低い評価を与える。これは本社主導から現場主導(現場主動)に変えていくことですから、かなり大きなパラダイムチェンジです。2年目から3年目に入って徐々に「あっ、どんどんやっていいんだ」「やっていいなら頑張ろう」という意識になってきました。

佐藤 本社ビル売却も大仕事ですが、長期的にはこちらの変化の方が大きいですね。

寺畠 開発部門においても、これまでJTと海外を統括するJTIとは別々に業務を行ってきましたが、昨年から一つにして、全世界のリソースをグローバルヘッドがひとりで配分できるように変更しました。調達から設計、開発、生産技術、営業も含め、これらは別のビルのワンフロアにドーンと入れて、プロジェクトごとに同時並行で進んでいく体制を整えています。

佐藤 基本的にいま、攻めの局面だということですね。

寺畠 はい。RRPについては積極的に投資するとともに、スピード感をもって開発・投入サイクルを回し、小規模でもいいから新しい製品を増やしていくことが大切です。その意味では、大きな企業ではあるけれど、ベンチャーのような取り組み方をしていきます。

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