日本初の「お迎え体験」調査 終末期患者の4割が亡き夫や妻と“再会”という事実
日本人には馴染みのある「お迎え」は、すでに亡くなった人や動物が、死にゆく人のもとに訪れる現象である。在宅緩和ケアの医師や人文社会学者らが、亡くなった終末期患者の遺族4340人にアンケート調査を依頼。1742人から寄せられたお迎えのデータを収集、分析したものをまとめ、4月に『「お迎え」体験』(宝島社新書)を出版した。著者で岡部医院仙台院長の河原正典氏に話を聞いた。
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お迎えは、民話的な事例では、あの世から死者がお迎えに来るという、なんともおどろおどろしい話になりがちだ。しかし、ここで紹介するお迎え体験は、ほのぼのとした事例が多い。
そもそも、最初にお迎え体験に注目したのは、在宅ケアを専門にする岡部医院を1997年、宮城県名取市に開設した故・岡部健氏だった。
「岡部さんは、呼吸器外科医として静岡県立総合病院や宮城県立がんセンターに20年近く勤務していました。がんセンター時代、治療効果が望めない一人の患者さんを自宅でのケアに切り替えたところ、病院では見られない人間的な豊かさの中で、息を引き取ったのです。この経験がきっかけとなり、当時まだ少なかった在宅ケア専門病院を開設しました」
と語るのは、河原氏である。同氏は外科医として仙台や福島の病院に勤務していたが、家に帰りたいと希望する終末期の患者が多いことを実感し、在宅医療に切り替えた。2008年2月に岡部医院へ。現在は岡部医院仙台院長を務める。
「岡部さんが在宅ケアを行う中で、彼の心を揺り動かした患者さんがいました。幼い子どもを抱える若い女性です。往診に来た彼に、彼女がこう切り出したのです。『おじいさんがお迎えに来ました。でも、子どもがまだ小さいから嫌です、って追い返しました』と。彼女はがんが脳に転移し視力を失っていました。岡部さんは、これを単なる幻覚として片づけることができなかったそうです。お迎えを初めて意識した事例でした」
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