石田純一、クドカンが公言 岡田晴恵氏も推す「アビガン」コロナにホントに効くの?
合理的な戦略
大場:ではなぜ、新型コロナウイルスに対する治療薬として、アビガンが候補に挙がってきたのでしょうか。アビガンが治療薬として期待できる根拠があれば教えてください。
増富:インフルエンザウイルスをはじめ、コロナウイルス(従来の風邪ひきコロナウイルス、SARS、MERS、今回の新型コロナウイルス)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ポリオウイルス、麻疹ウイルス、エボラ出血熱ウイルス、西ナイル熱ウイルス、デング熱ウイルスなどはすべて、「RNAウイルス」という種類に分類されるものです。
これらのRNAウイルスはどれも、自らの遺伝子を複製(コピー)し増殖する際に、「RdRP(上記参照)」という酵素を利用する、という共通の特徴があります。
RNAウイルスに属するウイルスであれば、この「RdRP」という酵素の構造やはたらきが非常によく似ているといえます。ということは、新型コロナウイルスといえども、同じRNAウイルスであるインフルエンザの「RdRP」を狙い撃ちにするアビガンが効くかもしれないという考えが出てくるわけです。
あとで話をしたいエボラ出血熱に対する治療薬のレムデシビルについても同じ考え方です。大切なことは、RNAウイルスとしての特徴であり、なおかつそのウイルスが遺伝子のコピーをつくり増殖するために必須であるアキレス腱を狙おうとすれば、「RdRP」が治療の標的候補に挙がってくるは合理的な戦略だといえます。
大場:理屈上、「RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)」を標的とするコンセプトが重要であることは理解できました。一方で、実験室の世界ではなく、ヒトに投与する薬としてはどうなのでしょうか。
増富:妊婦さんに投与した際の催奇形性の問題が危惧されているようですが。
大場:催奇形性という言葉で、「サリドマイド事件」を思い出しました。現在、サリドマイドは徹底した安全管理システムのもと「再発又は難治性の多発性骨髄腫」治療薬として承認されています。
1957年に「コンテルガン」という名称で催眠・鎮静剤として世界中で発売されたのですが、先天性四肢・臓器障害といった胎児の重症奇形の原因がサリドマイドだと判明したのです。1961年のレンツ警告後も、国内では約10カ月間にわたって販売され続け、被害認定が309人、約1000人以上に影響があったといわれています。
決して同じような薬だとは言いませんが、新型コロナウイルス患者に対する安全性の担保がないまま、「観察研究」として政府は「アビガン」を推奨した。そのことが国際的に見て、後に倫理上問題視される可能性があるかもしれません。
増富:どういう意味でしょうか? また、有効性についてはどうですか?
大場:「介入研究」として慎重に事を運ぶべきところが、特定の商品名を政府が公で推奨してしまい、まるで特効薬のような空気をつくってしまった、という点でしょうか。
有効だという評価は、すべて中国からのデータです。先に触れたジェネリックである中国産ファビピラビルを使用しているのですが、臨床試験の質そのものに問題がありそうで、どこまで科学的に信用してよいものか。新型コロナウイルスのほとんどが自然回復する中で、対象を明確にした質の高い比較試験で結果をみてみないと、本当にアビガン効果なのかはわかりません。
増富:最近では、アビガンのみならずエボラ出血熱ウイルスに対するレムデシビルの可能性も伝えられていますね。いずれの薬が承認されるにしても、質の高い臨床試験での検証をふまえないと国は認可できない、ということは当たり前のことです。まず、情報を発信する側がこうした点を理解したうえで、興味本位ではなく、正しい情報を発信してくれるということが大切に思います。
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