養老孟司さん「おこもり期間は成熟の好機」――「あの人の#おうち時間」(3)

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 新型コロナによる「おこもり」は不自由だけれども、自由な時間は山ほどある!ということで、人生に突如として現れた「おうち時間」の過ごし方を紹介してもらうこの企画。第3回は解剖学者の養老孟司さん。さて、いかがお過ごしですか?

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 自由時間ができたから、屋内では私は虫の標本作りと、分類のための観察。その結果、ゾウムシの新種がいくつもわかって、だれも読まない論文が増えそうです。

 私は小学校4年生から、虫の標本を作っています。作り方はたぶんネットにあるんじゃないかなあ。作り方を書いた本はいくつもありますよ。基本は大きい虫は針に刺し、小さい虫は台紙に張り付けます。その台紙に針を刺す。後はラベルをかならず付ける。いつ、どこで、だれが採っただけ書けばいい。これがないと標本ではありません。

 虫採りにいい季節になりました。ビニール傘を持って、人気のない山に行き、木や草の葉を棒でたたいて、傘に虫を落として捕まえる。殺すのは薬が手に入らないでしょうから、適当な容器やチャック付きビニール袋に入れて持ち帰る。お湯につけるか、冷凍庫に入れて殺す。もちろんビニール袋ごとでいいわけです。殺すのがイヤな人は写真ですね。

 虫に限らず、外に出る時は、自然の観察がお勧め。私は近くは50センチまで見える双眼鏡を持って、春の花などを見ています。

 スマホで写真を撮るより、ちゃんと自分の目で見たらいかが。今は時期がいいじゃないですか。植物がきれいです。歳をとると、不思議に植物に親近感を覚えます(もちろん人がいっぱいのところには行かないでくださいよ)。

 あとは本を読む。外で講演などしないから、草臥(くたび)れることがないので、堅めの本を読みます。たとえばマルクス・ガブリエル。(著書に『なぜ世界は存在しないのか』『「私」は脳ではない』など)

 30そこそこの哲学者ですから、若いもんが生意気言うな、とか思って、頭の中で喧嘩を売ってみたらどうですか。元気になるかも。

 せっかく神から与えられた時間ですから、進歩発展というより、成熟に利用したらどうかと思います。具体的にわからない? 人によって違うんですよ、成熟とは。

 頭で考えるより、体感することだ、とでも言っておきますか。

養老孟司(ようろう・たけし)
1937(昭和12)年、鎌倉生れ。解剖学者。東京大学医学部卒。東京大学名誉教授。新潮新書『バカの壁』は大ヒットし2003年のベストセラー第1位、また新語・流行語大賞、毎日出版文化賞特別賞を受賞した。大の虫好きとして知られ、昆虫採集・標本作成を続けている。『唯脳論』『身体の文学史』『手入れという思想』『遺言。』『半分生きて、半分死んでいる』など著書多数。

デイリー新潮編集部

2020年5月2日掲載

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