“葬儀鉄”をガッカリさせた北海道「札沼線」のラストラン コロナ禍でJRの深刻な懸念とは
問題行動の多い“葬儀鉄”
それでも新型コロナの感染拡大は止まらない。JR北海道は4月15日、最終運行日を4月24日に前倒しすることを決め、更にラストランを沿線4町限定で行うことを発表した。
JR北海道の広報資料には、
《沿線4町の皆様中心で札沼線とお別れするため、当日につきましても、町外からの来駅、沿線での写真撮影等をお控えくださいますよう、重ねてお願い申し上げます》
との文章が明記された。鉄オタと共にラストランを祝うなどという状況ではなくなったのだ。
そして4月16日、北海道全域が緊急事態宣言の対象地域となったことで、JR北海道は翌17日を最終運航日とし、4月27日のラストランは中止すると発表した。
「広報のタイミングが、鉄オタの間で話題になりました。16日の午後8時に発表されたので、熱心な東京都内の鉄道ファンが翌17日の飛行機1便で北海道に向かったとしても、“日本一早い最終電車”が新十津川駅を出発する午前10時に間に合わないことが明らかになったのです。一部の鉄オタの間ではシミュレーションが行われ、青森や新潟でも不可能という結論に達しました。こうして鉄オタが駆け付けることのできないタイミングで広報したJR北海道を称賛する声が増えていったのです」(同)
JR北海道が、こうした広報対応を行った背景には、“葬儀鉄”と呼ばれる鉄オタの存在があるという。
「写真撮影が好きな“撮り鉄”や、乗車を愛する“乗り鉄”などの呼称も市民権を持つようになってきました。“葬儀鉄”はラストランにこだわる一派を指すわけですが、鉄オタの間でも揶揄というか批判のニュアンスは強いと思います。と言うのも、最終運航日に大挙して駅に押しかけるだけでも迷惑なのに、写真撮影のポジションを巡って喧嘩したり、列車に向かって『ありがとうございました!』と感涙しながら絶叫したりするなど、恥ずかしい行動が目立つからです。葬儀鉄に眉をひそめる鉄オタも、決して少なくありません」(同)
ラストランのブームは90年代まで遡ることができるという。当時はブルートレインなどの名物列車や、全国各地でローカル線の廃止が頻発していた。駆け付ける鉄オタも分散を余儀なくされ、社会現象として目立つことはなかったようだ。
「最近は、廃止すべき赤字路線などはあらかた廃止されており、ラストランの“発生頻度”が下がっています。そのため、札沼線のようなことが起きると、全国から葬儀鉄が大挙して押し寄せてしまうわけです。頭に血が昇ったマニアは、自粛要請に耳を貸さない傾向があります。札沼線のラストランが感染拡大を招いた可能性は否定できないため、鉄オタの間でも『JR北海道の対応は極めて正しかった』と称賛する声が少なくないのです」(同)
札沼線のラストランは多くの人が参列する葬儀ではなく密葬、いや、更に小規模の家族葬になってしまった――こんな冗談も、一部では流布しているという。
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