県職員の10万円はコロナ対策費に… 広島県知事は批判されるようなことを言ったのか

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天下の愚策

 特別給付金の10万円。奈良県の荒井正吾知事は4月23日、「医療現場で働くスタッフ支援の財源にしたい」として基金を作って県民に寄付を呼びかけることを明かした。広島の一件を見て取ったのか、知事報酬の減額も県職員への寄付強制もしないとしている。本人は公選法上、寄付ができないので受け取らないという。

 地方での混乱は何の知恵もない「国民一律10万円」政策がもたらしたものだ。当初、政府は「減収世帯への30万円支給」を補正予算に盛り込んだが、公明党などから「給付対象が狭すぎる」と突き上げられ「一律10万円」となった。麻生太郎財務大臣は「富裕層の方々、こうした非常時には受け取らない人もいるんではないか」などとのたまい、批判を恐れた政府は閣僚、副大臣、政務官が受け取りを「自粛」。自民党の国会議員は受け取らないとし、他党は「自主判断」だ。政府や自治体は受け取り辞退や寄付を呼びかけている。

 それにしても「差し上げますがなるだけ遠慮してください、できれば寄付してくださいね」。こんな滑稽な政策があろうか。安倍首相は「みんなでこの状況を乗り越えていく中において、すべての国民に配る方向性が正しいと判断した」と胸を張るが、「線引き能力ゼロ」の「馬鹿でもできる政策」でしかない。政治とは「線引き」に他ならない。

 さて、広島県の湯崎知事。職員の10万円を「召し上げ、活用する」気があったのなら、批判に慌てて撤回したり謝罪したりせず、「公務員は恵まれているのだから」と堂々と進めてほしかった。

 筆者は阪神・淡路大震災以来、大災害現場をほとんど取材したが、どんな災害でも公務員は決して失業することはないということを痛感した。もちろん、災害時には公務員は激務になる。自己の家族を顧みることもできない。とはいえ、残業手当なども存分にもらえる。

 東日本大震災では宮城県名取市の驚くような残業手当代が批判されていた。大災害では民間の人は職場が消えたり解雇されたりする。生活が保障されていることとそうでないのとは天と地の差である。新型コロナウイルスも「大災害」。今回の災禍では保健所などは激務の状態だが、市役所、県庁など多くの公務員が感染防止のため自宅勤務になっている。実際は何も仕事などしていなくても給料はしっかり保証される。

 10万円を給付するなら対象者から、国家公務員と地方公務員。国会議員と地方議員を除外するべきだったのではないか。ちなみに2017年4月の統計では、日本の国家公務員は約58万人、地方公務員は274万人。国会議員は713人(衆院議員465人、参院議員248人)、地方議員は都道府県議員が2609人、市町村議員が2万9839人だ。これに10万円をかけると約3353億円になる。

 広島県の物議に関して片山善博元鳥取県知事はある取材にこうコメントしていた。
「湯崎知事は政府に対して、そのような制度(一律給付)はおかしいと言うべきなんです。いったん決まってしまったら、県職員であっても一人の国民として10万円給付、支給される権利が出てくるわけですから、雇用主(知事)があれこれ(使い道を)制限するようなことを言うというのはおかしい」。極めてまっとうな意見であろう。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年4月30日掲載

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