【コロナ禍】外出制限でDV急増のフランス 「マスク19」の合言葉で薬局が果たす重要な役割
元々フランスはDVが多いのか
私はフランスに住んで5年になりますが、実をいうと、これまで身近でDVの話題は聞いたことがありませんでした。メディアで取り上げられていた記憶もありません。調べてみるとDV問題が表面化してきたのは最近のようです。
この数年、被害者は増加しており、調査でわかっているだけでも昨年1年間で148人の女性が現在もしくは過去のパートナーに殺されています。
INSEE(国立統計経済研究所)によると、年間約22万人の女性がDVの被害に遭っていて、このうち警察等に被害届を出しているのは19%にとどまっています。一方、裁判で有罪判決を受けた加害者は約2万人にのぼるそうです。(2012-2018年の平均値)
女性に優しいイメージの強いフランス人男性ですが、マッチョな男性も少なくないようです。日本ではマッチョというと、筋肉の発達した体型の男性を思い浮かべるかもしれません。こちらでいうマッチョとは、男性優位主義の人のことで、女性をリスペクトしない男性を指して言われることが多いようです。
そのマッチョな男性がフェミサイド(女性を標的とした殺人)を起こしていると言われており、筋肉質な男性に対して「あなたはマッチョね」と言うと誤解されるので気をつける必要があります。
そのような男性優位主義のせいだけでなく、失業や貧困、アルコール、ドラッグ等の問題もあります。過去にDVでパートナーを殺した加害者の70%以上は失業中もしくは退職していて、通報されたときアルコールを飲んでいた割合は高く、違法ドラッグに関する前科があるケースが10%以上という調査結果もあります。
ですので、フランス社会で普通に仕事をして犯罪と関わらず、アルコールに溺れることなく生きている人の周囲ではDVの話題が出なくても不思議ではありません。以前の記事に書いたようにフランスの失業率は9.1%と日本の約4倍の高さです。失業から生まれる経済的困窮など社会の偏った層にDV問題が起こりやすいのであれば、顕在化しにくい社会問題がコロナ危機により炙り出されて大きく表面化したともいえるではないでしょうか。
政府・民間による幅広いDV対策
DVの増加に伴い、次のような対策が取られています。日本でいう110番にあたる通常の警察「17」に加え、パートナーが同じ家の中や傍にいて連絡することができない場合にメッセージだけで助けを求められる「114」があります。携帯電話のショートメッセージ機能で名前と現在地、状況を送ると警察が駆けつけてくれます。身の危険が予想される場合は、メッセージを下書きしておくことが勧められています。元は聴覚障がい者のための緊急番号ですが、外出制限によるDVの増加に対応するために利用可能になりました。
TGD(Telephone grave danger、重大な危険時の電話)という、一般には広く知らされていない緊急SOSシステムもあります。これは、検察官が身の危険があると判断した女性のみ所持できる携帯電話のような端末で、側面のボタンを押すだけでテレアシスタントを経由して警察に通報され、平均して5、6分で警察が駆けつけるシステムです。これは2014年の男女平等法に基づく施策で、夫婦間暴力や性的暴行から被害者を守るための措置として導入されました。
各自治体も女性のために様々な相談センターを設置しています。例えばパリには外国人女性専用の暴力被害相談センターや、フェイスブックメッセンジャーなどを活用して被害者を支援する協会もあります。
[2/3ページ]