コロナ禍の「抗体検査とBCG論争」から見る 日本人の免疫へのあこがれ

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呪術的で危ない

大場:結論から言うと、信頼度の低い話だと思います。BCG定期接種をしている国々と、そうではない国々との間に確かな差があるようにみえます。(https://twitter.com/AkshatRathi/status/1245626716430561285/photo/1)。

 現在、検証作業もやっているようですが、WHOの公式見解では、新型コロナウイルス感染予防のためのBCG接種は、エビデンスがないから「推奨しない」と宣言しています。実は、このような相関関係は後付けでいくらでも作ることができるのです。

 有名なところでは、マーガリンの消費量と離婚であるとか、チョコレート消費量とノーベル賞受賞数であるとか。調べてみると、イギリスとフランスは定期接種を止めてからまだ15年ほどしか経っていませんから、大半の大人は接種済みと考えられます。

 EUの中でも低い致死率のドイツは、定期接種を止めたのがすでに22年前。感染者数、死亡者数が日本よりはるかに少ないオーストラリアは44年も前ですから、少なくともBCG接種が原因ではないでしょう。ついでにBCG定期接種国イランの致死率は、現在、アメリカを上回っています。(THE BCG WORLD ATLAS 2nd Edition http://www.bcgatlas.org/)。

 ちなみに、国内の直近での新規結核発症者数(平成30年データ)は、年間1万6000人近い状態で、世界的にも「中蔓延国」扱いです。

 日本人は目に見えない「免疫力アップ」にとりわけ敏感なので、エセ医学に容易に騙されやすいところがあります。科学的な「メカニズム」が証明されないうちにBCG接種の新型コロナウイルス予防効果を論じるのは、呪術的で危ないですね。浅はかな大人たちがその気になって、本来の接種対象である「ゼロ歳児」への供給を妨げる行動をとることだけは絶対にやめていただきたいと思います。

週刊新潮WEB取材班

大場大 おおば・まさる
1999年 金沢大学医学部卒業、2008年、医学博士。2016年より東京オンコロジーセンター代表を務める。2009年-2011年がん研有明病院。2011年-2016年、東京大学医学部附属病院肝胆膵外科。2019年より順天堂大学医学部附属順天堂医院肝胆膵外科非常勤講師。専門は、外科学、腫瘍内科学、消化器病全般。

増富健吉 ますとみ・けんきち
1995年 金沢大学医学部卒業、2000年、医学博士。2001年-2007年 Harvard大学医学部Dana-Farber癌研究所。2007年より現職。がん細胞の増殖と、コロナウイルスを含むRNAウイルスの増殖に共通の仕組みがあることを突き止めており、双方に効く治療薬の開発が可能かもしれないと考えている。専門は、分子腫瘍学、RNAウイルス学、RNAの生化学、内科学。

2020年4月26日掲載

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