財閥国有化に動く文在寅…“持たざる者の怨念”で総選挙圧勝を追い風に まずは大韓航空
総選挙で大勝した文在寅(ムン・ジェイン)政権が財閥国有化に動く――と、韓国観察者の鈴置高史氏は読む。
左派独裁の時代
鈴置:4月15日投開票の韓国の国会議員選挙で、与党「共に民主党」が圧勝しました。比例区の衛星政党「共に市民党」を含めれば、300議席中180議席を獲得したのです。
これで憲法改正以外はどんな法案も通せます。検察官や裁判官、高級公務員を狙い撃ちにする「高官不正捜査庁」――韓国語を直訳すると「高位公職者犯罪捜査処(公捜処)」も7月の発足が可能になりました(「文在寅政権が韓国の三権分立を崩壊させた日 『高官不正捜査庁』はゲシュタポか」参照)。
文在寅政権が行政に加え司法、立法の三権を握り、やりたい放題できる「左派独裁の時代」が到来したのです。
――「新型肺炎に世界でもっとも上手に対処した」との宣伝が選挙に効いたのですね。
鈴置:ええ、「コロナ対策で『文在寅』の人気急上昇 選挙を控え『韓国すごいぞ!』と国民を“洗脳”」で指摘した、政権側のシナリオ通りになりました。
ただ、翌々日の4月17日から「左派が勝った原因は『コロナ』だけではない。そもそも韓国人は保守に愛想を尽かしている。というのに、保守の側がそれに気が付いていないのだ」といった論調が急速に広がりました。
保守の没落は構造的
――「保守に愛想を尽かした」となぜ、言えるのですか?
鈴置:2016年の総選挙、2017年の大統領選挙、2018年の地方選挙に続き、今回の総選挙で保守が左派に4連敗したことが証拠です。
政治コンサルタント会社「ミン」のパク・ソンミン代表は中央日報のインタビュー「保守はすでに非主流なのに、彼らだけは自らを主流と思い込んでいる」(4月17日、韓国語版)で、そう指摘しています。
確かに「4連敗」は珍しく、それなりに説得力があります。韓国では「大統領に保守が当選すると、次の総選挙では野党が勝つ」あるいは、その逆になることが多い。
1987年まで続いたいわゆる「軍事独裁体制」への否定的な記憶から、国民は1つの政党が圧倒的な力を持つのを本能的に嫌うのだ、と説明されてきました。
朝鮮日報の2人の政治記者、キム・ヒョンウォン氏とイ・スルビ氏が書いた「まだ保守が多数と錯覚…強硬な支持層に振り回され中道層を失う」(4月17日、韓国語版)。この記事は得票率や議席数から保守の劣勢が明白になった、と主張しています。訳します。
・このところ、2強の構図で実施された大統領選挙では、それぞれの陣営の単一候補がきわどい拮抗を続けてきた。2013年の大統領選挙では保守候補(朴槿恵=パク・クネ)が51・55%、進歩候補(文在寅)が48・02%を得た。
・2002年の大統領選挙では反対に、進歩候補(盧武鉉=ノ・ムヒョン)が48・91%、保守候補(李会昌=イ・ヘチャン)が46・58%の得票率だった。3%前後の僅差で勝敗が決まったのだ。
・しかし、今回の総選挙では保守陣営全体が議席の36・6%(110議席)を得るに留まった。有権者の陣営の構図が再編されたのではないかとの観測が出ている。きわどい均衡を維持してきた社会の理念の地形が変わり、保守よりも進歩層が厚い時代に入ったということだ。
「持たざる者」を見捨てた
――なぜ、「保守が構造的に没落した」のでしょうか。
鈴置:朝鮮日報の楊相勲(ヤン・サンフン)主筆は「持たざる者が増えたからだ」と言い切りました。「2大政党ではなく日本式の『1・5党体制』の入口だ」(4月17日、韓国語版)を翻訳します。
・「共に民主党」の得票は、強固な全羅道の大量票と、30-40歳代を中心とする若年層の反・未来統合党票、そして韓国社会の格差が拡大するにつれて「持つ者」に反感を抱くようになった広範囲の階層の連合だ。
・1997年のIMF危機以降、韓国社会は本格的に両極化の道をたどり始めた。1995年に全人口の70%を超えていた中産層が、昨年は52%前後に下がった。自らを中産層だと思っている人は52%よりもさらに少ない。韓国社会の衝撃的な構造変化だ。この大きな変化が政治の地形に影響を与えないなら、それこそおかしい。
・「3040世代」は1980年前後に生まれた人々で、民主化後に成長した世代だ。大学進学率は80%に達する。彼らが10-20歳代だった時、IMF通貨危機に見舞われた。経済の高度成長が止まったため、当然だった就職が夢物語となる苦痛を、身をもって経験した世代だ。
「持たざる者」の増加が保守の凋落を呼んだ、という見方はほかの記事でも共通しています。パク・ソンミン代表は「保守はすでに非主流なのに、彼らだけは自らを主流と思い込んでいる」で、以下のように語っています。
・富が一方に偏ったことに憤る人々が増えているというのに、保守は「市場に任せねばならぬ」と壊れたレコードのように唱えるばかり……。
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