森岡毅(刀 代表取締役CEO)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】
同調圧力は弱い者いじめ
森岡 経済に目を転じると、コロナの影響は本当に深刻です。エンターテインメント業界は、自粛圧力に狙い撃ちされているとしか思えない状態です。はっきりいって合理的じゃないリクエストが多々ある。
佐藤 メディアも含め、感情的になっていますからね。
森岡 私の関わっているネスタリゾート神戸は、屋内施設は閉めていますが、9割を占める屋外施設は営業しています。でもディズニーやUSJが休園しているのに、なぜ閉めないのかという声は、やはりあります。
佐藤 科学的な根拠に基づかない感情論ですね。
森岡 閉鎖への同調圧力で、いままで何とか持ちこたえてきた企業が、にっちもさっちも行かなくなっている。
佐藤 特に中小零細の企業は深刻でしょう。日本は株式会社といっても、お金を借りる時には個人保証をする必要があります。実質的に、有限責任の株式会社ではありませんから。
森岡 私も44歳までサラリーマンをやってから起業しましたが、現実の株式会社は教科書の記述とは違いました。銀行は個人保証を付けないとお金を貸してくれません。
佐藤 だから会社に借金がある場合、潰れると経営者一家が路頭に迷うことになる。
森岡 そういう会社が数多くあります。だから非科学的な同調圧力によって営業をやめさせるのは、どうしても納得できないですね。同時に、安全という言葉に思考停止して、すぐにやめる選択をするのは、プロとして失格だと思います。100か0ではない。努力して努力して安全に動かす水準に持っていくことが重要です。その努力を怠ったら、日本経済は終わりますよ。
佐藤 逆に資本力のあるところは、みんなに降りてもらったほうがいいと考えるでしょうね。その結果、倒産すれば、寡占化できますから。
森岡 おっしゃる通りです。だから同調圧力というのは弱い者いじめなんです。この先、感染より経済で死んでいく人の数のほうが多くなることはありうると思います。
佐藤 大会社は、この機会をうまく使って、前からやってみたかったテレワークなどを推し進めています。そうすると雇用形態が変わり出す。働き方のかたちがこれを機に変わっていく可能性があります。
森岡 確かにそうですね。業界間で明暗がつきすぎているところが問題ではありますが、危機は己を変革するチャンスでもあります。危機の中から変革のエネルギーは出てくる。
佐藤 それはそうですね。
森岡 そこで各々の会社が、価値を生み出すマーケティングを取り入れた経営をするよう変わっていけばいい。私はこれまで数十という企業を見てきましたが、強みのない会社なんて見たことがありません。どこかに顧客、消費者にとって価値あるものが備わっている。その根幹以外は全部変えてもいいのに、変えられずに苦境に陥る企業が多いんです。
佐藤 そのやり方で続いてきただけに、なかなか変えられない。
森岡 変えちゃいけないことだけ残して、それ以外は全部変える。つまり不易流行なんですよ。今回の危機が多くの方々の危機感に火をつけて本来なすべき改革のほうへもっていけるのなら、この騒動も意味があるのかもしれません。
佐藤 私もそう思います。
森岡 私は、まだまだ日本には可能性があると思っているんですよ。実はいま農業に大きな可能性を感じています。個人としても、狩猟免許を取ったりして、農村や山で狩猟生活をすることもあるんです。
佐藤 どうして農業なのですか。
森岡 もともとは、これから作ろうとしている沖縄のテーマパークや広大な自然のなかでキャンプができるネスタリゾート神戸のための、大自然で人を興奮させる仕組みの研究として始めました。しかし今は日本の未来のために、さらに強い関心を持っています。今の日本の農業は頑張った人が報われない構造になっている。それは内部から変えられないので、外から変えたいと思っているんです。地方創生というけれど、持続可能な事業をその地域にどう作るかは、ノウハウが全然ありません。そこにマーケティングを導入して、どの地域でも応用できるやり方を普及させてみたい。
佐藤 森岡さんがすべて見て回るわけにはいきませんからね。
森岡 魚の欲しい人に魚を持っていくのではなく、釣竿を与えて釣り方を教える。つまりはその手法や思想を多くの人に理解していただくのが一番いいんです。そうしたやり方で農業だけでなくさまざまな分野に取り組んでいこうと思っています。
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