森岡毅(刀 代表取締役CEO)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】
政権危機の回避術
佐藤 森岡さんはこのコロナウイルス騒動はどのくらいで落ち着くとお考えですか。
森岡 これにもマーケティング理論があります。人の噂も七十五日と言いますが、その経験知と同じなんですね。一つのことにこだわり続けることができるのは2~3カ月が限度だと言われています。
佐藤 受験勉強などで集中できるのもそのくらいです。
森岡 人間の脳の耐久限度が2カ月くらいなんですね。だから普通なら2~3カ月で収束していくはずですが、SNSなどの普及によって、コロナを目にする機会が相乗的に増えていますから、もうちょっと尾を引くかもしれません。
佐藤 次々と新しい話題も出てきますしね。
森岡 今回、日本は軽症者には自宅療養を勧め、重症者だけを医療機関で診ていく方針で対応しています。これは、イギリスのジョンソン首相が言った「集団免疫」で免疫の壁を作っていくことにも通じるところがあります。その後、ジョンソン首相は方向転換しましたが、統計学的には60%くらいの人が免疫を獲得すると、人から人への伝染が起こりにくくなり、自然と終息に向かう。
佐藤 そのことは意識していたでしょうね。いまのところ日本は、検査は抑え、重症者だけを診ていくことで、一定の成果を出しています。医療資源が限定されているわけですから、感染者数の把握よりは、治療に重きを置く。選択と集中というか、選択と捨象ですね。
森岡 そこで不思議に思うのは、政府がそれを初め、明確に説明しなかったことです。こうした考えのもと、こんな手を打っています、ということがわかったら、混乱は最小限に抑えられるし、ウイルスの実力と被害の帳尻が合ってくると思いますが、どうして説明しなかったのでしょうか。
佐藤 その時点では、説明しても国民がうまく理解できないと考えたからだと思います。最初に政府は「2週間がヤマです」と言っていましたね。ただ日本には国際的に通用する公衆衛生の専門家はいないんです。そうすると厚労省の医系技官や専門家会議のメンバーの助言を聞いて、当初2週間と言った可能性がある。でもすぐに無理なことがわかった。
森岡 それはどこから情報が入ったのですか。
佐藤 やはり諸外国のインテリジェンス機関からいろいろな分析結果が入ってきたのだと思います。
森岡 なるほど。
佐藤 2週間で抑え込めないとなると、見通しを誤ったわけですから、政権の危機になります。こうしたとき、インテリジェンスの定石では、戦線を拡大するのです。2週間後に批判が出てくることを考えて、今度はやりすぎだと言われる政策を打ち出す。そのメニューの中で一番経済に与える影響が少ないものとして、小中学校と高校、特別支援学校への休校要請が選ばれたのではないかと思います。
森岡 そういう流れですか。
佐藤 するとすぐに野党・立憲民主党の蓮舫議員などが引っ掛かって、「根拠がない」「やりすぎだ」「すぐ学校を開けるべきだ」と言い出した。その瞬間に2週間後の政権危機は消えたんです。
森岡 非常に政治的な動きだったのですね。
佐藤 私はそう見ています。安倍政権は自身の危機管理においては、非常によくできています。逆に野党は稚拙ですよ。安倍政権を攻めるなら、このコロナ騒動でいったん政治的停戦をします、民主的手続きで選ばれた安倍内閣を支持しますと言っておいて、各論で政府が解決できないようなことばかり出せばいい。
森岡 どうして満員電車を止めないんですかとか。
佐藤 または、公衆衛生の専門家は誰がいて、その人物はどんな対策案を打ち出していますか、などと追及していく。
森岡 政権の失点をハイライトしていくわけですね。
佐藤 その上でここは改善したほうがいいとか、このほうが国民のためになるとか、建設的提案をしていく。それなら、将来の政権交代につながると思いますね。
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