【特別編】「おうちにいよう」そして「マンガを読もう」前編:親子で楽しめる10選 独選「大人の必読マンガ」案内(22)
新型コロナウイルスの影響で、学校は長期休校、大人も在宅勤務と、誰もが自宅で過ごす時間が激増しています。生活のリズムが狂い、日々のニュースを見れば気持ちも沈む。
「コロナ疲れ」は深刻です。
でも、今、我々にとって「おうちにいよう」は、文字通り、日本と世界を救うための使命です。この辛い現実をうまくやり過ごすため、あらゆる資源を総動員すべきです。
私は日本人にとって、この戦いにおける最強の武器は、マンガだと思います。
マジメに。
読書家でも「本が読めない」
先日、ある博覧強記で知られる読書家のツイッターアカウントがこんなことをつぶやいていました。
「活字の本が読めない自分に驚いている。どうしても集中できない」
読んでハッとしました。私自身、相当の本好きなのですが、読書の「持久力」が落ちているのを自覚したのです。
巣ごもりに備えて面白い本、読みたい本を買い込んで、「積読」は充実させたのに、手が伸びない。読み始めても、没入できず、気づくとスマホをいじっている。
映画も同じような状態です。Amazon Prime Videoの「お気に入り」に登録済みの大量の名画のリストを見ても、上映時間2時間超となると、躊躇してしまう。
どうやら、ある程度集中して消化するタイプのコンテンツは、今は摂取量に限界があるようなのです。
例外がマンガです。
活字より視覚的で「世界に浸る」ハードルが低く、映画と違って自分で「幕間」を調整しながら、長編なら数日にわたって楽しめる。
「コロナ疲れ」を癒やすため、今こそ本棚から引っ張り出すか、「大人買い」でド長編を再読する、あるいは未読の名作にトライする好機です。
本サイトで以前、『人生に必要な知恵はすべて「マンガ」で学んでね』(2019年5月2日)と題して、高井家流のマンガ「R指定」システムをご紹介しました。作品が一部重複しますが、今回は『独選「大人の必読マンガ」案内』の特別編として、改めて「おうちにいよう」の最良の友となるマンガをご紹介します。
連載では「手元にある完結した作品」を時事に絡めてご紹介していますが、今回は「ストレス無しで楽しめる」をテーマに、未完のマンガも取り混ぜています。
一部の長編マンガは「お試し購入ライン」もご提案してみました。セレクション含め、完全に私個人の独断と偏見によるものです。「大人買い」の参考になれば幸いです。
では、能書きはこれぐらいで。
親子でも大人でもイケる「鉄板」マンガ
特別編・前編は「子どもを『スマホ漬け』から救う」という喫緊の課題に応えるラインナップを。もちろん、大人のスマホ中毒・コロナ疲れにも効果抜群です。
荒川弘『鋼の錬金術師』(通称:ハガレン)
陳腐な表現ですが、これは「読んでないのは人生損してる」レベルの傑作です。構想とプロットに一部の隙もなく、大人も子どもも一気読み必至。
読みやすさ抜群の作画、特にアクションシーンの「何が起きているか一目でわかる」描写力は、下手な映画では太刀打ちできないレベルです。単行本全巻一気買いで間違いなし。
皆川亮二 七月鏡一・原案協力『ARMS』
こちらもバトル系の傑作。「戦闘力のインフレ」と「今日の敵は明日の友」的なありがちな展開ではありますが、「アリスとは何者か?」という謎解きが太い軸として貫かれているので、グイグイと引き込まれます。「これ、本当に週刊連載だったのか?」という作画も圧巻。
「ハガレン」よりは好みが分かれるところかもしれないので、まずは第1部「覚醒編」、単行本なら3巻までをトライしてみてはどうでしょうか。
冨樫義博『HUNTER×HUNTER』
説明無用で「買い」ですので、「子どもと一緒に」の方に注意点だけ。
そこそこ残虐なシーンがあるので、我が家では「小学校5年生から解禁」という縛りをかけていました。気になる方は「グリード・アイランド編」、単行本なら18巻までにとどめれば安心かもしれません。大人なら「キメラ=アント編」が最強に面白いので30巻まで一気買いでOK。
と区切ってみましたが、結局、既刊全巻買う羽目になると思います。最大の問題は休載が多いこと。続きが気になって悶絶して、「冨樫、働け」と叫ぶ勢力の一員になってしまうことでしょう。
働け、冨樫。
森川ジョージ『はじめの一歩』
このボクシング漫画の傑作の問題は、巻数が「こち亀」(こちら葛飾区亀有公園前派出所)並みで二の足を踏んでしまうところ。既刊120巻オーバーはさすがに「一見さん」にはトゥーマッチです。
そこでオススメは、まず単行本30巻の対千堂武士戦まで読むこと。
「お試し」にしては長すぎるとお思いかもしれませんが、この一戦まではオーソドックスなボクシングものとしてクオリティが極めて高く、しかもこのタイトルマッチは同作中、屈指の名勝負です。ページを繰る手が止まりません。
樫木祐人『ハクメイとミコチ』
ちょっと殺伐としたバトルものが並んだのでぼちぼちと中和していきます。
身長9センチの小人たちとリアルサイズの動物の生活を描いた日常系ファンタジーです。一点物のイラストのような緻密な絵柄で、ボーイッシュなハクメイとお姉さん体質のミコチの豊かでスローな暮らしぶりが描かれます。
練り込まれた世界観のなかで愉快で多彩なキャラクターが遊ぶ姿に子どもが夢中になり、やたらと旨そうな料理やお酒を見て大人は「家呑み」が進みます。
古舘春一『ハイキュー!!』
バレーボールを題材にとった、安心して読める部活マンガの王道。
これはお子さんはもう読んでいる、あるいは読みたい・そろえたいと思っている可能性大。「大人買い」してしまいましょう。お父さん・お母さん株急騰のチャンスです。
大人が読んでも十分面白いので「投資」は確実に回収できます。
なお私の「推し」は青葉城西高校の及川徹キャプテンです。
ほったゆみ・原作 小畑健・作画『ヒカルの碁』
インドアで楽しむことを強いられている今、この名作は外せません。こちらも全巻一気買い推奨ですが、あえて言えば単行本17巻までの「佐為編」が神がかった出来。ヒカルや周囲の少年少女の成長物語として、「読者側が謎を知っているミステリー」ものとして、何より囲碁の世界の入口として、マンガ史に残る作品です。
未読の大人は、まだ読んでいないのを幸運だと思って、この機会にぜひ読んで、子どもと囲碁が楽しめるとなお良いのでは。ちなみに私は倉田厚五段推しです。
山口つばさ『ブルーピリオド』
つい最近「マンガ大賞2020」に選ばれたばかりの話題作。私も最近すっかりハマったので、ラインナップに加えておきます。こちらもインドア派で、お絵描き欲を刺激してくれます。少々、レベルが高すぎますが。
東京藝術大学を目指す高校生の成長物語から、「絵を描く」という行為の本質が垣間見える奥深い作品で、大人でも目から鱗な視点やエピソードが盛りだくさんです。
まだ7巻までと「尺」が短いので、食い足りない方には同系列で、羽海野チカ『ハチミツとクローバー』もオススメします。
美内すずえ『ガラスの仮面』
世代を超えて人間を徹夜に追い込むモンスター級のページターナーですので、スマホから距離をとらせる最終兵器です。未読の大人は、不明と怠惰を反省したうえで、お子さんと一緒に「一般教養」として読んでください。
熱烈なファンから怒られそうですが、「紫の影」編までが鉄板ゾーンです。コンパクトで買い揃えやすい白泉社文庫で言えば、19巻までは一気買いして間違いなし。
なお、「徹夜モノ」と書きましたが、免疫力を保つためには睡眠不足は禁物です。ご注意を。
上橋菜穂子・原作 藤原カムイ・作画『精霊の守り人』
最初にお断りを。この一作を推薦するのは反則かもしれません。なぜなら私自身、未読だからです。
それでも、推します。
私は上橋菜穂子さんの大ファンで、この作品は原作の小説とアニメ版をそれぞれ数回、再読・再視聴しています。原作の面白さは折り紙付き。そして作画が『雷火』の藤原カムイ。このコンビなら「鉄板」確定。なぜ今までコミックを買っていなかったのか、我ながら謎です。
これを入り口に、『守り人』シリーズ、『獣の奏者』へと引き込まれていけば、お子さんを「マンガから活字の本へ」というコースに導けます。
そんな計算は抜きで、私自身、先日届いたばかりの漫画版を読むのを楽しみにしています。
人間への信頼感を
新旧織り交ぜて10作品を羅列してきました。
共通項は、もちろん「面白い」なわけですが、もう1点、選ぶうえで考えたのは、「人と人との繋がりで、登場人物たちが成長していく」という作品の枠組みのようなものです。
新型コロナは私たちの社会の形を変えようとしています。
今は、その過程でネガティブなインパクトが表面化しやすい時間帯です。メディアやネット空間の言説も、不安とギスギスとした空気に満ちています。
マンガは所詮、フィクションではあります。
しかし、フィクションだからこそ描ける人間の善性もあります。
コロナ禍で戦う前線の方々への畏敬の念は忘れてはいけない。
同時に、私たちのように「おうちにいる」ことが「持ち場」である大多数には、心の余裕を生んでくれて、人間への信頼感を取り戻せるコンテンツが不可欠です。
そんな困難な時期にうってつけの素晴らしい作品を生み出してくれたクリエイターたちに敬意を払いつつ、思う存分、マンガを楽しんではいかがでしょうか。
後編では大人向けに、「ひとときの現実逃避」の時間を与えてくれる作品群を紹介したいと思います。
乞うご期待!