体験ルポ セーフティネット「無料定額宿泊所」がコロナ・クラスターになる日

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“クラスター”の斜め前は幼稚園

 入居4日目である。経験したことがない喉から腹部にかけての激痛に襲われた私は、早朝、救急車で近くの大学病院に搬送された。切腹をするような痛さに眩暈がする。

 各種の検査の結果が出た。テレビで私を見ていたという青年医師は、「タチの悪い腸炎です。珍しいですねえ。ほとんどは、空気感染で起きるんですよ……」と、首をかしげていた。見栄っ張りの私は、無料低額宿泊所のことは、告げていなかった。そういえば、多くの高齢の入居者が、廊下といわず、食堂といわず、ゲホゲホやっていた。

 その後、私は同様の奇怪な施設を、2カ所移動させられて、都合8カ月を過ごすのだった。厚生労働省などの資料によると、同様の劣悪施設が、大都市を中心として全国に600カ所ほど存在している。入居者は、1万5000人とか。無届施設を含めると、その2倍以上の数になる。また入居者の「前職」は、半数近くがホームレスの人である。

 新型コロナウイルスが猛威を振るう昨今、何もわからぬまま福祉事務所との連動作戦によって、同様の施設へ勧誘されてしまう皆さんが急増することは、必至である。

 しかも、3密どころではない各無料低額宿泊所は、住宅地や商店街に存在する空き家となっている民家とか社宅において、ステルスのように運営されている。私が最初に入居した施設の斜め前は、大きな幼稚園だった。

 しかし、国も地方自治体も、その実態に関しては知らぬ存ぜぬを貫き通している。知ってか知らずか、首都圏を統べる私の顔なじみの各知事も、久々のテレビ出演に笑顔が漂っているように見える。なんだか、同窓会だ。

 無料低額宿泊所が、とんでもないクラスターになることは、時間の問題である。

村野雅義
作家、1954年 東京中野生まれ 東海大学工学部建築学科卒業。学生時代から、放送作家を始める。33歳のときから、テレビ番組に出演する。「巨泉のこんなモノいらない!?」「朝まで生テレビ」、各ワイドショーなど。クルマで、日本中過疎地やへき地を160万キロ、地球40周ぶんの距離を巡ってきた。 著書に、「バキュームカーはえらかった」「田中角栄vs小泉改革」「地方栄えて日本は破産」「東京は日本一ビンボーだ」など

週刊新潮WEB取材班編集

2020年4月17日掲載

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