体験ルポ セーフティネット「無料定額宿泊所」がコロナ・クラスターになる日

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ネットカフェ難民→ホームレスの先に

 新型コロナウイルスの影響によって、ネットカフェ難民が、東京都や千葉県、埼玉県、神奈川県などが用意した宿泊所に収容されている。だが、その運用はハードルが高く、せいぜい1週間前後の期間限定であり、長くても大型連休明けまでの措置となっている。

 不幸にも、ホームレス状態となった人々の行き先は、いったい、どこになるのだろうか?

 都県では、もっぱら「社会福祉事務所に、相談してください」と指導している。社会福祉事務所というのは、役所の一部署で、生活福祉課が兼ねている場合が、ほとんどだ。

 思えば2年半前、気がつくと私は、JR大崎駅横の高層マンションの家賃を滞納していた。銀行預金はもちろんのこと手持ちのおカネも底を突いていた。テレビ番組に出演したり、25年以上いろんなところに執筆したりしてきた。だが、新潮社での書き下ろし小説に、乏しい能力を注ぐあまり、おカネを稼ぐという行為をおろそかにした酬いだったから、文句も言えない。

 2017年11月の末、JR大井町駅にほど近い高台の一等地にそびえる品川区役所の中にある福祉事務所を、私は自主的に訪ねていた。「保護の条件は、そろっています。生活保護の受給申請をしてください」と女性職員。以心伝心、段取りがすこぶる早い。

 新型コロナウイルスの猛威によって、御同輩が急増することは、必至と思う。多くの人が辿るであろう、その後に待っている想像を絶する待遇を、お伝え申し上げておきたい

 すべての漢字に、ふりがなが振られている懇切丁寧な説明パンフレットの冒頭から、読み合わせが始まった。バンジージャンプこそ未体験だが、落ちる所まで落ちて行く感じだ。

 枠で囲まれたなかに、憲法第二十五条が、うやうやしく謳われている。

 …(1)すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する…。

 生活保護の受給者は、法的には「被保護者」と呼ばれる。日本全国で、164万世帯、207万人とか[2020年度]。

 ご丁寧にも、私の借財まで心配してくれる。さらに当面の生活費として、5000円なり、が支給される。

 1週間前、電話でソフト闇金から、1日1割の金利で3万円を借りて、一昨日に完済したことは、黙秘することにした。

 数時間後、所定の手続きを済ませると、富士額で色っぽい女性がジーンズ姿で現れた。まるで、季節はずれの幽霊のように。

 私の宿泊先となる「無料低額宿泊所」なる保護施設の支援員だ、とケースワーカーなる区役所の女性職員が説明してくれる。キツネにつままれたような、脳味噌が浮遊する気分のまま、私はその女性と、デート気分で自転車を押しながらトボトボと歩いていた。

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