専門家はほぼゼロ「コロナウイルス研究の失われた10年」を考える

国内 社会

  • ブックマーク

「コロナウイルス特有の対応策」が本当にあるのか

増富:繰り返しになりますけど、SARS、MERSの出現以前、コロナウイルス自体は人類にとってそれほどの「強敵」ではないという認識がありました。加えて、SARS、MERS以降の「コロナウイルス研究の失われた10年」のため、そもそもコロナウイルスの「専門家」は世界中を見渡しても数は少ないと思います。

 その数は、インフルエンザウイルスやC型肝炎ウイルス、麻疹ウイルス、ポリオウイルスなどコロナウイルスと同じ「RNAウイルス」に属するウイルスの研究者の数に比べると随分と少ないと思います。「コロナウイルス特有の対応策」が本当にあるのかすらわかっていない状況ではないでしょうか。

 現状、それぞれの専門家としての立場から、最善と思われるアドバイスをするという対応しかないのではないでしょうか。ただしメディアをはじめ一般の人たちは、「専門家」といわれるとやはり多かれ少なかれ、「新型コロナウイルスのパンデミックに関する専門家」と理解するわけです。その辺はどうしても受け取る側の「リテラシー」レベルも、ある程度問われるのではないかと思います。さらに言えば、今回の新型コロナウイルスのパンデミックに際して、医療従事者ですらその辺りのリテラシーの欠如は否めないと思います。

 医師たちもほとんど気にも留めていなかった元来は「風邪ひきウイルス」の名称がついたウイルスによるパンデミックですから。医療情報のリテラシーに関しては、むしろ大場先生のライフワークではないですか?

大場:今回のコロナ禍に関して、僕自身も知らない、わからないことばかりですから、情報の取捨選択スキルが個々で求められますし、場合によってはエセ情報を盲信してしまうリスクも潜んでいますね。風邪ひきコロナウイルスは229E、OC43、NL63、HKU1の4種類。重症肺炎コロナウイルスはSARSとMERS、そして今回の新型と併せて3種類。SARSとMERSのアウトブレイクの時に、ワクチン開発も含めて本気でコロナウイルス研究に取り組んでこなかったツケが今の混沌とした事態を招いていると理解しました。

週刊新潮WEB取材班

大場大 おおば・まさる
1999年 金沢大学医学部卒業、2008年、医学博士。2016年より東京オンコロジーセンター代表を務める。2009年-2011年 がん研有明病院。2011年-2016年、東京大学医学部附属病院肝胆膵外科。2019年より順天堂大学医学部附属順天堂医院肝胆膵外科非常勤講師。専門は、外科学、腫瘍内科学、消化器病全般。

増富健吉 ますとみ・けんきち
1995年 金沢大学医学部卒業、2000年、医学博士。2001年-2007年 Harvard大学医学部Dana-Farber癌研究所。2007年より現職。がん細胞の増殖と、コロナウイルスを含むRNAウイルスの増殖に共通の仕組みがあることを突き止めており、双方に効く治療薬の開発が可能かもしれないと考えている。専門は、分子腫瘍学、RNAウイルス学、RNAの生化学、内科学。

2020年4月15日掲載

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。